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19 王国の人が来た
騎士団の東向きの正門には、騎士団旌旗が誇らしげに掲げられている。
だけどこの日は、団旗の隣に、王国の国旗もならんで掲げられていた。
王国から訪れる高官の一行が、騎士団施設に立ち寄るからだ。
施設内にある大広間では、歓迎パーティを行う準備が整っている。
パーティを行う大広間では、たくさんのご馳走が用意されていた。
立食パーティ形式で、王国からのお客さまに、気楽に好きなものを食べてもらおうというはからいだ。
各所に置かれた丸テーブルには、本当に様々な料理が並んでいた。煮物、揚げ物、蒸し物、和え物、サラダやケーキにその他もろもろ。
食事準備担当者の苦悩がうかがえる。
今まで、王国からの視察は数年に一度しか行なわれないうえに、1時間ほどで要件をすませて帰ってしまうため、食事を用意する必要性が全くなかった。あらかじめ寄越される文書にも、「食事の必要はない」と、毎回はっきりと記されていた。
なのに今回は、「食事の必要はない」の一文が見当たらなかったのだそうだ。
もしかしたら王国の人間たちは、ここで食事をするつもりでは。
その事に気付いた獣人たちは、俄かに慌てふためいた。
どうしよう。なにを準備しよう。
人間はなにが好き?
その疑問は真っ先に、王国出身者で人間である俺のところへ飛んできた。
「なんでも好きです。なんでも食べます」
胸を張って俺は答えた。
そうしてその結果が、このランダムでバラエティに富んだ料理群というわけだ。
俺も今回、パーティに参加させてもらうことになっている。
建物内には旨そうな匂いが満ちていた。食べたことのなさそうな料理がいくつかあるのはチェック済みだ。
偉い人の話とか適当に聞き終わったら、あとの時間は、好きな料理をいろいろ取って食べて過ごそう、と決めている。
今は、一緒に参加する職場の人たちと、騎士団建物の入り口ホール内で待機中だ。ホールには他の参加者たちも大勢集まっていて賑やかだ。
ご馳走がいっぱい食べられる、と思うと始まるのが待ち遠しい。
やがて御一行到着の時間が近付いて、
「もうすぐ来るぞ」「油断はするな」「粗相をするな」「警戒しろ」
周りからは、そんな小声が漏れ聴こえてきた。
見れば獣人たちは、みなどことなく緊張した面持ちでいる。たくさんの耳がぴんと立って、近づいて来る馬車の音に集中している。
東正門をくぐった広場に、大型の魔術式高速馬車が2台、ゆっくりと侵入し、停車した。
王国からのお客様が到着したのだ。
獣人騎士らが整列して遠巻きに見守る中、馬車からは7名ほどの人間が降り立った。
高官が2人、付き添い事務官が1人、護衛らしき騎士が4人。御者は馬車の中で待機だろう。
当たり前のことだが、7名とも、俺にとっては見知った顔だった。
高官2人は第1事務室の偉い人たちだし、事務官として訪れたのは、第3事務室の室長だ。つまり3人とも、俺にとっては元上司だ。......あれ、「元」じゃないな。今でも俺の上司なのかな。
3名は友好的な笑顔を浮かべて、獣人のお偉いさんたちと挨拶や握手を交わしている。
「本当に少人数で来たのだなぁ」
「みんな耳がないなぁ」
「ひげも薄そうだなぁ」
「近くに来たついでに立ち寄ったそうだぞ」
ホールから一緒に外を覗き見ていた獣人たちが話をしている。
「だけどこうして気楽に交流できるのは良いことだなぁ」
俺は過去に王宮勤めを3年間していた。
だから、一応知っている。
「少人数で気楽に来ました」的な感じで来ている王宮の御一行様だけれど、背後に控える煌びやかな護衛騎士の中には、Sクラスの攻撃系魔術騎士が2人いる。Sクラスの攻撃魔力というのは、たった一人でこの騎士団建物を吹っ飛ばせるレベルの破壊力を持つ。
ほかの2名の騎士も、俺の記憶が間違いでなければ、「スタミナ剣豪魔人」とか、「鉄壁腹黒鬼畜防御」とか、凄いふたつ名を持つ者たちだ。
華やかな容姿と穏やかそうな表情で、無害な風を装ってはいるけれど、護衛の4人は最高位の騎士ばかり。
王国は相当なフル装備で来ている。
怒らせてはいけない。
怒らせたら、あっという間に街が滅びる。
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