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23 待っていられるか
性急にドアが開閉する音がした。
「ただいま!!」
ラグレイドの声だ。仕事から帰って来たんだ。
いつもの夜警明けの日よりもずっと早い帰宅だった。きっと仕事を早めに切り上げて来てくれたんだ。
室内をもの凄い早足で近づいてくる音がする。ラグレイドの濃厚な気配を感じる。
俺はベッドの上でのそのそと身を起こした。
「シオ!」
寝室のドアが勢い良く開いて、ラグレイドは俺の姿を見つけたようだ。
「......大丈夫か、」
目を見開き、心配げに慎重に俺を見つめ、室内に脚を踏み入れてくる。
「......ラグ、......おれ、」
俺は、ラグレイドが帰ってきたら、聞いて欲しいことや伝えたいことがいっぱいあった。発情期と言われたこととか、身体が妙に熱いこととか。
なのに、うまく言葉が出て来なかった。
なぜだか勝手に瞳が潤んで、視界が滲む。手の甲でごしごしと目を擦った。
すぐそこに、ラグレイドがいる。
騎士の制服を身に着けた精悍なその姿は、とても男らしくて格好良かった。
汗の匂いにまじって、濃厚な雄の肌の匂いを感じる。
身体の奥がじりっと疼いた。
やっぱり俺は身体がおかしい。「発情期」の症状だろうか。
えっちなことを考えているわけでもないのに、中心部が芯を持ちそうになる。熱い吐息が勝手に漏れて、触られてもいないのに後孔が濡れてしまう。
こんなのは変だ。俺の身体がいつもと違う。
「......おちんちんが勝手に勃っちゃう......っ」
「............っ」
男前な黒豹獣人の騎士は、俺の発言を聞いても笑ったりはしなかった。
やや困ったように言葉を失くし、そうして、食い入るように、ベッドの上にいる俺の姿を凝視した。
俺は、若干の羞恥を覚えた。
おちんちんについての現状も、もちろん恥ずかしいのだけれど。
それよりも、たぶん俺今、ものすごく変なことになっているから。
あれから、身体の熱さが我慢できずに、だけど服を脱ぐのが億劫で、シャツを中途半端にはだけさせたままでいた。
ズボンは床に脱ぎ捨てている。下着はどうにか穿いていたけど、ズボンを脱ぐときに一緒に脱げかけてしまっていて、もしかしたらおちんちんが半分見えているかもしれない。そのおちんちんは、少し立ち上がりかけている。
ぐしゃぐしゃのシーツの真ん中で、ラグレイドのTシャツとパジャマもぐしゃぐしゃだ。黒にゃんは小脇に抱えている。
ほぼ半裸の状態で、呼吸だけがやたらと乱れる。
何もしていないのにじっとりと汗をかいていて、たぶん情けない顔をしている。涙目だと思うし。
俺は、ラグレイドを呆れさせたり、困らせたりしてはいないだろうか。一瞬、そんな不安が過ったけれど。
「シオ、」
ラグレイドは、ベッドの目の前で片膝を着き、真っ直ぐに俺に視線を合わせてきた。
そうして、とても真剣な表情で俺を見る。
「5分間だけ、待っていてくれ。シャワーを浴びてくる。そのあとで、いっぱい触る」
ラグレイドの呼吸は、いつもよりも随分と深くて早かった。
心なしか目元の皮膚が紅く染まっている。肌の匂いもいつもより濃い。
艶やかで美しい金色の瞳は、吸い込まれそうな煌めきを帯び、俺のことをじっと捕えて離さない。
待っていられるか。
囁く声音でそう尋ねられ、俺はこくりと肯いた。
待ってる。
黒にゃんを両腕で抱え直し、ラグレイドを見つめ返した。
待ってるから。
いっぱいがいい。大きな手で、逞しい腕で、広くて厚い胸で肩で、身体全体で、俺をさわって。
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