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27 ペコッてするやつ

 洞察力といえば、この前の休日にも似たようなことがあった。  俺は探し物をしていて、しばらく探しても見つからないから、ソファのところでくつろいでいるラグレイドに尋ねてみることにした。 「ラグ、ペコッてするやつってどこだか知らない?」 「......ペコ? て、するやつ......?」  さすがのラグレイドにも分らないようだった。 「うん。ほら、小さい物を入れられる、ペコッてなるやつ」 「......ぺこ......? ......ペコ......」  腕を組み、難しげな顔で考え込んでしまった。 「ええと、鳥みたいな形してて、ペコッてするんだよ。そしたら背中に物を入れられるようになっていて......、ごめん、こんな説明じゃ分かりにくいよね」  するとラグレイドは、なにか思い当たるふしがあったようで、 「......もしかして、これか......?」  と言いながら、棚の引き出しの中から、鳥の形をしたブリキの小物入れを取り出してくれた。  これは鳥がおじぎをすると、背中部分に物をいれるスペースが現われる小物入れだ。手のひらサイズでかわいいんだけど、入れる場所が狭すぎて、どんぐりぐらいしか入らない。 「そう! これだよ、ありがとう」  俺は前日に職場でちょうどどんぐりを3コもらったので、これに入れようと思って探していたのだ。とても綺麗などんぐりだから、しばらくとって置こうと思って。  俺が鳥をペコリとおじぎさせ、背中にあらわれた物入れ部分にいそいそとどんぐりを投入していると、 「......ペコッてするやつ、......そうか、なるほど、これは.........」  背後で何やらぶつぶつ呟く声がして、見るとラグレイドが鳥の小物入れを見ながら、若干くやしげに、「ペコッとするやつだな......」と呟いていた。  夜のまったりとした時間が好きだ。  寝支度を済ませ、好きな本を読んだりお気に入りの音楽を聴いたりして、就寝までの時間を過ごす。  時折分らないこととか、ちょっと聞いて欲しいこととかをラグレイドに話すと、騎士は思慮深げに返答をくれたり、目を伏せて静かに笑って聞いてくれたりする。  寝る時間になって、本を片づけ、手洗いを済ませて寝室へ行くと、ラグレイドが先にベッドに入っていた。  だけど横になっているわけではなく、クッションを背にしてゆったりと上体を起こし、小さな本を読んでいる。  今日はえっちなことをしない日だ。  いや、ちょっとはするかもしれないけれど、挿入を伴うえっちはしない。あれはシオの負担が大きいから、あまりやりすぎるのは良くない、そう言ってラグレイドが決めたのだ。  セックスは、体調が良くて余裕のある、休日の前の日だけ。  だけど、今までみたいに、くっつき合ったり触りっこみたいなことはしてもよい。  黒豹獣人の青年は、いつものラフな格好で、まだ湿り気の残る髪を無造作に下ろしていた。読書に耽る横顔は、知的な静謐さを帯びていて魅力的だ。  俺は同室者のことを少し観察してしまう。筋肉で張った上腕の盛り上がりや、Tシャツを押し上げる厚い胸の男らしい様、艶やかな黒い毛並みの美しい尻尾。そうして、触りたくなってしまう。 「ラグ、......」  俺はベッドによじ登り、ラグレイドの横に移動した。  ラグは俺のために掛布団を捲ってくれて、俺が寝やすいように少し身体をずらしてくれる。そうして、俺のことをじっと見るから、俺もラグレイドのことをおずおずと見た。 「......俺ね、今日は『吸うの』がいい......」  ラグレイドはたまに俺の希望を聞いてくれる。  今日はどんなことをして寝たいか、を。  それで、俺は本日のリクエストを口にしたのだけれど。  そういえば、『吸うの』だなんて、随分とあいまいな言葉だよな。いったいこれで、分ってもらえるものなのだろうか。理解不能で呆れられたりしたらはずかしい......。  だけど、ラグレイドは喉奥で小さく笑って、 「いいよ」  本を置き、艶めいた瞳で俺を見ながら、Tシャツの裾を両手でたくし上げてくれた。  ほら。と言って、露わにされたそこには、見事に盛り上がる胸筋と、それを彩る男らしい胸毛の色っぽさ、そして赤銅色のふたつの乳首。  俺は吸い寄せられるようにして、その雄々しい身体に抱きついて、右の乳首に唇を寄せた。  咥えて吸い付くのが好きで。  これをしていると、すごく安心して良く眠れる。  獣人は、微かにふっと息を漏らした。 「シオは子猫のようだな」  そう言えば、幼い頃にも、そんな風に言われたことがあったなあと思い出す。  俺はじいちゃんっ子だったから、子どもの頃の夜はよく祖父と寝ていた。  祖父の身体にぴったりとくっついて寝ていると、 「シオはにゃご(子猫)だなあ」  とたまに言われた。  祖父は俺のことを「にゃご」と呼んだり、「ちい」と呼んだり、呼び名に関して、なんとも自由な感じの人だった。  そうだ、クリップを『ばさみ』と呼んだり、キッチンタイマーを『ピコピコ』と言っていたのはじいちゃんだ。じいちゃんの影響で、俺まで変な風に物の名前を呼んでしまうようになったんだ。そうに違いない。  じいちゃんの影響力でかいな。無意識のうちに似てしまうとは。  なんだかなつかしくなってしまった。  ちなみに祖父は生きている。今でも元気に畑仕事をしているはずだ。気まぐれに釣りに行ったり山菜取りに行っているかもしれない。  じいちゃんからは、いつもお日様の匂いがしていた。  ラグレイドの身体からも、どこか爽やかな、お日様に似た匂いがする。  頼もしい胸の柔らかい尖りを吸いながら、俺は郷愁にかられていた。  それで思わず、 「......じぃちゃん」  と小さくつぶやいたら、 「............」  ちょっと、咎めるような目をされた。  言っておくけど、今のは呼び間違えたわけじゃない。ただほんの少し、祖父のことを思い出していただけだ。決してラグレイドを祖父と混同したわけではない。  えへ、と笑って誤魔化そうとしたんだけれど。 「......分からせる必要がある」  え? あれ。なんで?   ラグレイドは金色の瞳を光らせて、おもむろに俺のことを組み敷き始めた。   だから、別に俺は、間違えたわけじゃないんだってば。ちゃんと分っているんだってば。  祖父は孫にこんなことしないだろーっ!  俺は裸にひん剥かれて、いっぱいえっちなお仕置きをされた。 「俺は誰?」 「ラ、ラグレイド」 「憶えたな。いい子だ」   ラグレイドは、ちょっと鬼畜なところもある。 【シオが書いた報告書】  獣人地区には「マヨ」というとても美味しい万能調味料があります。正式名称は『マヨネー・デ・ラー・オイシーデス』という、とても難しい名前です。たまごと酢と油でできていて、どんな料理にもよく合います。  美味しくて便利なマヨですが、付け過ぎは良くありません。マヨの付け過ぎは素材の持ち味を消してしまうからです。ほどほどに使用するのが良いようです。ゆで卵と食べるのが一番おすすめです。      

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