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第12話

 抵抗心を奪うように、素直なのか意地っ張りなのかわからない唇を奪う。硬直してしまった相庭を無視して、ちゅ、ちゅ、と何度もキスを繰り返し、舌で歯列をなぞった。  なかなか受け入れてもらえないことに焦れ、「口を開けて」と囁くと、何か言い返そうとして相庭が開口する。その隙に許可もなく舌をねじ込んだ。粘膜を舐めると相庭の呼吸が乱れ、途中で息苦しそうにストップをかけられたが、椎名の中にやめる選択肢はなかった。 耳殻を弄んでいた指を下ろし、鎖骨の窪みを一撫でしてから胸元を掌で覆った。そのままやわやわ揉み込むと、相庭が驚いて目を見開く。 「椎名!?」 「嫌じゃないなら触らせて」 「……んっ!」  平らなその場所が女性と同じように感じるものなのか全く想像できないが、気持ちいいポイントが多いに越したことはない。先端の粒を人差し指で擦ると、相庭の肩がビクリと揺れる。様子を見るように指でしつこく摩擦しながら耳朶を食めば、明らかに甘い吐息が相庭の口をついた。  気をよくして、片手を下腹まで伸ばそうとした瞬間、ものすごい力で相葉がそれを阻止する。 「ダメだって!……体に障るとまずいし、安静にしてないと!」  気遣わしげに慌てた声で訴えられ、同じ男ならいい加減わかってほしいと焦れったくなる。もう体の心配なんかしてくれなくていい。椎名は今、相庭に触れたくて仕方なかった。 「大丈夫。最後まではしないから」  続いた相庭の反論を、指先の動きで封じる。布越しに引っ掻いていた小さな突起に、シャツの下から忍ばせた手で直に触れた。乳暈をくるくるくすぐると、相庭が肩をすくめて甘く息を吐き出す。こんな小さな場所でちゃんと感じているだなんて不思議だ。 「相庭、これ気持ちいい?」 「あっ、や……っ」  小さく甘い声を漏らしながら快感を受け止めていた相庭は、しつこく胸元をいじられるうちに諦めがついたのか、立ち上がりかけた椎名の中心にそっと手を伸ばした。打ち身に触れないよう両足を跨いで膝立ちになり、腰を浮かせたまま向かい合わせの態勢になる。 「下は俺がするから、椎名はずっとこっちいじってて」  胸をいじりまわしていた手に相庭が指先を絡めてきて、恐ろしいほど煽られた。 「いいよ。ここそんなにイイんだ」 「ふ、んあっ……」  気持ちよさそうな嬌声がやる気に火をつける。お願いされればやってあげないわけにはいかない。強請られるまま薄っぺらい胸の上までシャツをたくし上げ、立ち上がって主張する淡い突起を口に含んだ。 「ふわっ! あっ、……っ!」  背中を反らしたせいで、相庭自ら胸を突き出すような体勢になった。すかさず腰を支えて先端に吸いつくと、相庭は目元を赤く染め、今にも泣き出しそうな顔で喘いだ。  かつては友人だった男が、自分に胸を責められて蕩けているのかと思うとやけに興奮した。  互いの屹立を握りこみ、緩急をつけて限界へと追い込んでいく相庭の掌が気持ちいい。前戯でしかない行為になぜこれほど煽られるのか。  早く解放されたい。もっと欲しい――。渇きを潤すように密着して唇を合わせると、舌先が痺れて夢中になった。求めて、求められる感覚が、内側の熱を昂ぶらせていく。相庭の乱れた呼吸が耳元に落ち、下肢に一気に熱が集まった。 「んあっ、椎名っ……も、無理かも……!」 「んっ、俺ももう我慢できそうにない。相庭も、ほら、……一緒にっ」  切羽詰まった恋人の声が愛おしくて、出口を求めていた快楽が一気に弾けた。相庭の掌の中に二人分の飛沫が放たれる。  乱れた呼吸を整えるより先、目の前の柔らかな唇を貪るように奪った。抵抗することなくぼんやりと受け入れる様子がたまらない。唇を合わせたまま相庭の髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜる。  ようやく心も体もまるごと彼の恋人になれたのだと、満ち足りた感覚を噛み締める。  数ヶ月前までは想像もしていなかった愛情が、椎名の中で確かに芽吹いていた。

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