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4.
放課後。自分で言うのも何だが珍しく授業に出た今日は疲労を感じる。
下駄箱で靴を履き替えていると、背後から二人組が。
「ええ、お前また任せたのかよ…」
「だって正木に頼めばやってくれるだろ」
下駄箱の場所から同じクラスの生徒だと判明した。そのまま去っていく二人の背中を見つめてしばらく考える。
結局、履いたばかりの靴を脱いで上履きを手に取った。
多くの生徒と反対に校舎内へ進む。出たばかりの教室へ辿り着けば、もう話し声は聞こえない。
迷った末にがらりと扉を開く。
「…え」
顔を上げた正木は、露骨に嫌そうな表情を作る。見渡す教室には彼以外の姿はない。
手元に山積みされた資料とホチキス。どう見ても押し付けられた雑用だろう。
ここまで来たからには手伝って早く帰宅するに限る。それに正木のことも知れる良い機会だ。
細くため息を吐いて向かいの椅子を引く。
「一部ずつ取ってまとめる。…で合ってるか?」
一連の動作をぽかんと眺めていた彼はさかんに瞬いて肯定した。予備のホチキスを引き寄せてプリントを重ねていく。
ちらちらと此方を窺う視線がこそばゆい。
ただ黙々とプリントを重ねては綴じる時間。野球部の掛け声と、吹奏楽部の練習が遠く聞こえるだけ。
かさ、と紙の音が鳴って終わりを告げる。
目線を上げれば微妙な顔の正木。何か話そうとして、そういえば嫌われていたと思い直した。
「職員室…運ぶ、から」
ぎくしゃくと立ち上がった彼はまさか一人で運ぶつもりだろうか。この量を?
舌打ちしそうになって、すんでのところで堪える。
「貸せ」
三分の二ほどを奪う。顎で扉を示してやれば渋々といった体で先導する形に。
始終無言で辿り着いた職員室。担任は俺達二人を見比べて面食らったような様子だったが助かった、と受理した。
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