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「…藤堂」 「何だよ」 放課後の教室。六月に入り、梅雨の季節になった。 あれ以来何故だか色々と手伝ってくれる藤堂。 相変わらず不良は好きではない。けれど、僕の知っている不良とは何処か違う。 「どうして毎回お前まで残るんだよ。嫌がらせにしては手が込んでるな」 「…嫌がらせ、って」 きょとりと瞬いた彼が頭を掻く。作業の手を止めこちらに向き合う。 恩を感じているのも事実で、なるべく穏便に済ませたいとは思うが。そちらがその気なら争いも辞さない覚悟だった。 「正木は…委員長に向いてないだろ」 「……は?」 やはり喧嘩を売るつもりか。引き攣る顔面を自覚しながら食ってかかろうと口を開く。ところが、彼の瞳はもの言いたげで。 「…理由は」 気迫を削がれてため息をつく。どう返ってくるかと思案していた僕の耳に届いたのは、至極簡潔なひとこと。 「傍で見てれば分かる」 さあ―――…と響く雨音。窓枠を伝う雨粒を眺めたあと、口を開く。 「……中学で」 何故こいつに話そうとしているのか。自分でも分からない。けれど口火を切ってしまったからには、と静かに腹を括る。 「いじめ、られてた…んだ」 「…いじめ」 ぼそりと呟く藤堂を向いて、笑う。上手く話せないかもしれないけれど、出来るだけ悲壮感を漂わせないように。 「まあ、僕に落ち度があったんだよ。だから高校では同じ事にならないように、って……先手を打った、つもり」 例え雑用係であったとしても。必要とされれば、いじめの対象になってしまう確率は格段に減る。 黙って僕の話を聞いていた彼は、ややあってゆっくりと言葉を発した。

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