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「…結局のところ、パシリだろ。それは」 静かに告げられた内容は、けれど見過ごすことのできないものだった。目を背け続けてきた、事実。第三者からの現実を突きつけられて。 「っ……お前に、何が分かるんだよ…!」 思わず立ち上がった僕を見上げる凪いだ瞳。やがてゆっくりと閉じられたそれが再び現れる頃、藤堂は同時に口火を切った。 「分からない。……自分が出来ないことを棚に上げるような奴の考えは」 「え……」 てっきり僕の考えを否定しているものだとばかり思っていた。ところが。 聞こえようによっては、雑用を押し付けてくる周囲への言葉にもとれる。というか、事実そうなんだろう。 誰にも言うなよ、と前置きしてから語られた彼の半生。 「身の回りのことは全部ひとりでこなせるように育てられてきた。高校は好きにさせてくれっていう我儘が通ったのも、文句言わずに付き合ってきたおかげだと思う」 随分と厳しい家庭なのかとぼんやり聞き流していた僕の耳は。次の瞬間、馴染みのない衝撃を拾った。 「祖父の代から続く藤堂財閥。名前に泥を塗るようなこと以外なら何をしても構わない、と」 「は…?」 「騙してたつもりは無かったけど。黙ってて悪かった」 藤堂が?財閥の息子?漫画やドラマの世界じゃあるまいし。けれど、そういえば不良というだけで女性関係の噂は全く聞かない。せいぜい授業をサボったりする程度だ。 再び腰を下ろした椅子がガタンと音を立てる。 「…だから、まあ。面倒事を押し付ける人種には腹が立つし…背負い込みすぎてる奴は、助けたくなるんだよ」 頬杖をついた藤堂が笑う。薄茶の瞳が細くなって、見つめる僕の胸にふと込み上げるのは何という感情だったか。 「褒められる、必要とされるのが嬉しいのは…人間なら当たり前だ。けどな、自分のキャパ以上のことを引き受けるのが偉いとは思わない」 じわり、と。目頭が熱くなる。見られたくなくて咄嗟に俯いた。 「それに、甘やかしてばかりじゃ相手のためにもならねえだろ?あのな。『頑張る』と『無理をする』は違う。努力が負担を越えた時、それは『無理してる』ってことになるんだよ」 分かるか?と首を傾げた藤堂は、確かにしっかりとした1人の人間だった。 今まで彼を勘違いしていたこと。酷い態度を取っていたこと。それでもやはり金髪は嫌いなこと。そんな風体の相手に諭されていること。そして、 「…なんて。偉そうだったかな、委員長?」 からかうように弾む声を受け、泣いてしまったこと。 (―――…悔しい) いつの間にか収まっていた藤堂の胸は、暖かかった。

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