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「祭りの金魚だから、普通のと比べたら寿命は短いかもしれないけど」 「…うん」 呟くように語る藤堂は、珍しく真剣で。つられてこちらも神妙に頷く。 間に流れるおかしな空気。何か別の話題を考えなければ、と隣を見て固まった。 「………なに」 立てた膝に頬杖をつく彼が、こちらを凝視している。短く問えば、ゆっくりと口を開いた。 「…コンタクト、しねえの?」 「あぁ…まあ。別に、眼鏡でも不自由ないから」 激しいスポーツとは無縁。勉強ばかりの自分には不要だ。焼きそばを咀嚼しながら告げれば、伸びてくる指。 繊細そうな線を描く細さが意外だ、と何処か他人事のようにぼんやり眺めて。 「……ふは。可愛い顔してんじゃん」 吹き出す彼の顔は、ぼんやりしていてよく見えない。不明瞭な視界のなか、揺れる金髪が光った。 「お前こそ。金髪やめれば良いのに」 「へえ…」 驚いたような声。どうせ隣を向いたって表情なんか分かりっこない。早く眼鏡を返してくれと願いながら、ひたすら無心で箸を口に運んだ。

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