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11.
夏祭りの日から、藤堂とはぽつぽつメッセージを交わし合う仲になった。
そのどれも、大抵がくだらない内容ではあったけれど、いつしか小さな楽しみになっていたことは認めよう。
(今日は屋上で食べるか)
新学期が始まって数日。秋風が心地好い季節までは少し遠いが、だからこそあまり人気 もないだろう。そう踏んで屋上に足を向けた。
結果から言えば、僕の予想は的中だった。無人の屋上を前にして、ほうとため息をつく。
ど真ん中で食べてやろうとも考えたが、そこは悲しき性 。給水塔の裏が落ち着く自分を不甲斐なく思いながらも、しぶしぶ腰を下ろした。
しばらくすると、屋上に続く錆びたドアの開く音が。同じ考えの生徒かと思えば、どうやら違うらしい。
「…ごめんなさい、こんな所まで来てもらって」
女子生徒の声。好奇心に負け、気付かれぬように顔を出す。こちらに背を向けた男子生徒が誰かは分からない。
(これは出て行けないぞ………)
漫画か。と突っ込みたくなる。いわゆる告白シーンだろう。
「……別に」
(うん…?)
やけに聞き覚えのある、ような。応えた声は自分も良く知っている、いや、でもそんな…まさか。
「あの…夏休みの補習、とか、保健室を使う人も言ってたんだけど、髪を染めてから……なんていうか、話しかけやすくなったって」
「そりゃどうも」
―――間違いない。藤堂だ。
けれど、僕の知っている金髪はすっかり影を潜めていた。再び顔を出し、艶やかな黒髪を眺める。
夏休みの補習はもちろん対象外だったし、保健室にも行っていない。新学期が始まっても例の如くサボり魔な藤堂に会っていないのだから、そう考えると納得がいく。
(知らなかった…)
あれだけやり取りをしていながら、後ろ姿で藤堂だと気付かなかったこと。ここから出られず、この先に待ち受けているであろう愛の告白を聞かなければならない、そんな二重苦に頭を抱えた。
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