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13.
とは言っても、そう簡単に気持ちを消せるはずがなく。ふとした拍子に目で追ってしまう自分に気づいては、落ち込む毎日。
例えば、藤堂が珍しく授業を受けている時。
席替えのお陰で少し離れた場所に配置された僕は、斜め前の彼を存分に眺めることができる。丸められた背と、時折漏れる欠伸。くあ、と不真面目そうな態度のくせに良好な成績を維持しているところが憎らしい。
例えば、廊下の向こう側から歩いてくる時。
髪が黒になったところで本質的な部分は変わらず。億劫そうな歩き方と、それでいて無駄にスタイルが良いところが憎らしい。
ただひとつ、前と違うのは。
「――、まさ「藤堂くん!」…あー……」
僕の姿を認めた藤堂は、恐らく声を掛けようとしていた。ところがどこからとも無く現れた女子。可愛らしい長髪を目に留め、前にもあったとぼんやり考える。
踵を返したのは、そのすぐ後だった。
アイツを―――藤堂を、避け始めてからどのくらい経つだろう。
「それじゃあ正木、これ頼むな」
担任から受け取った、文化祭のプリント。今度のホームルームで出し物を決めるそうで。頷いて教室へ向かう。
「……おい」
廊下の角を曲がってすぐ。投げられた低い声にびくりと身を竦ませる。
声の主は壁にもたれた藤堂。不機嫌さを隠しもしない相貌で睨まれては、荒事に不慣れなこちらは怯えるというのに。
黙ったまま通り過ぎようとしたものの、そうはいかなかった。
「何で急に避けてんだよ」
避けてなんかない、と。言おうとした。けれど単純に恐怖を感じてしまって。喉の奥に貼り付いたままの声が言葉を紡ぐことはない。
「……気に障るようなこと、したか」
首を振るのが精一杯。「じゃあ――…」と言い募った藤堂は、ふつりと黙り込んだ。
「あー……分かった。話もしたくねえんだな」
言い捨てて、背を向ける。引き止める術は持っていない。それに、これで良かったのだと思う。
ただ、あちこちが痛い気がする。
皺になったプリントを眺めて、配布するクラスメイトに謝らなければと考えながらゆっくり歩き出した。
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