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「練習室の許可、取ってきた」 がらりと開いた扉の先、立っていたのは藤堂。1枚の紙を手に机へ近づいてくる。 「日程、大丈夫だと思うけど。確認しといて」 「…ああ、うん」 ありがとう、と続ける声がしぼむ。副委員としての彼は非常に優秀だった。それはもう、周囲の予想をひどく裏切るほどに。やはり英才教育の賜物だろうか。 「台本?」 そのまま目の前に座ると端的に問うてきた。頷けば僅かに寄った眉間。皺になるぞ、と軽口を叩いていた頃が懐かしい。笑いながら指を伸ばして、それで――… 「…い、……おい、聞いてんのか」 はっと意識が戻される。不機嫌三割増しの藤堂が何を考えているのかさっぱり理解できない。ぼんやりする頭を切り替えようと頬を叩く。 このクラスでは劇をすることになった。大元は登場人物の多い白雪姫を参考に、オリジナルの笑いや見せ場を足す予定だ。 クラスメイトの演劇部は大道具専門だとかで、台本の方面はからっきしだという。そこで、誰が書くことになったかといえば。 「『委員長、いつも本読んでるもんね?お願い!』だったか?」 頬杖をつく藤堂。物真似はあまり得意ではないようだ。たとえ苦手なものであっても、情報が得られて嬉しい。そう思ってしまうのは、まだ、 (……決めただろ) 諦めることから逃げている自分がほとほと嫌になる。ため息を飲み込んで、書き上げたばかりの原稿を押しやった。 「目、通して。変なとこあったら書き直す」 もの言いたげな藤堂は、しぶしぶと言った(てい)で紙束を抱えた。黙読を前に、凝った肩を回す。次に取り出したのは色とりどりのフェルト。 「……おい」 「何、どこ?」 「ちげえよ」 早速ミスか、と舌打ちしたくなるのを堪えて聞けばそうではないと言う。彼が顎で示したフェルトと、その顔を交互に見比べる。 「…衣装は買うって言ってなかったか」

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