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16.
「…衣装は買うって言ってなかったか」
そう問えば、目の前の正木は頷く。
「ベースはね。そのまま使うわけにいかないし、安いって言っても無限に買えるわけじゃないから」
ゆえに細かいパーツやサイズを直す部分だけ請け負ったのだという。
「ミシンは家にないけど、それは女子がやってくれるって」
そういう問題ではない。思わず頭を抱えた。どうしてこうも全て抱え込むのか。
海より深いため息を吐いたあと、フェルトの山に手を伸ばす。ハサミを奪って先を促した。
「下描きした線、切るぐらいならできるから」
「え?原稿もう読んだ?」
「お前が書いたんなら大丈夫だろ」
仮にミスがあったとして、それは自分達で直せば良い。黙々とフェルトを切り始めてからしばらく。全く動きのない正木の様子を窺えば。
(…なん、って顔してんだよ……!)
うっかりハサミを振り回すところだった。
何の気なしに放った言葉だったが、思えば恥ずかしい内容のような気もする。褒められて嬉しいのだろう、易々と読み取れる感情に染まった頬は仄かに赤い。
ああやはり好きだ、と。
いつからだったか定かではない。けれど、想いを寄せた相手に避けられるのはそれなりに堪えた。荒療治とは百も承知で、無理矢理にでも傍に居る選択をして正解かもしれない。
「…副委員にも頼って良いんだからな」
手を止めずに呟けば、ややあってふと吹き出す正木。顔を上げる俺の目に写ったのは、「まあ…考えとく」と浮かんだ淡い微笑みだった。
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