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「…衣装は買うって言ってなかったか」 そう問えば、目の前の正木は頷く。 「ベースはね。そのまま使うわけにいかないし、安いって言っても無限に買えるわけじゃないから」 ゆえに細かいパーツやサイズを直す部分だけ請け負ったのだという。 「ミシンは家にないけど、それは女子がやってくれるって」 そういう問題ではない。思わず頭を抱えた。どうしてこうも全て抱え込むのか。 海より深いため息を吐いたあと、フェルトの山に手を伸ばす。ハサミを奪って先を促した。 「下描きした線、切るぐらいならできるから」 「え?原稿もう読んだ?」 「お前が書いたんなら大丈夫だろ」 仮にミスがあったとして、それは自分達で直せば良い。黙々とフェルトを切り始めてからしばらく。全く動きのない正木の様子を窺えば。 (…なん、って顔してんだよ……!) うっかりハサミを振り回すところだった。 何の気なしに放った言葉だったが、思えば恥ずかしい内容のような気もする。褒められて嬉しいのだろう、易々と読み取れる感情に染まった頬は仄かに赤い。 ああやはり好きだ、と。 いつからだったか定かではない。けれど、想いを寄せた相手に避けられるのはそれなりに堪えた。荒療治とは百も承知で、無理矢理にでも傍に居る選択をして正解かもしれない。 「…副委員にも頼って良いんだからな」 手を止めずに呟けば、ややあってふと吹き出す正木。顔を上げる俺の目に写ったのは、「まあ…考えとく」と浮かんだ淡い微笑みだった。

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