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20.
数日後。体調も回復して、久しぶりに登校できた。
「あ、委員長!風邪、もう治ったの?」
「平気だよ。ありがとう」
眉を下げるクラスメイトに笑えば、ほっとしたような顔で席に戻っていく。
深く息を吸い込んで、口を開いた。
「…あの。みんなに話したいことがあるんだけど」
予想していたのは、混乱、質問、はたまた聞く耳を持たずといった態度。ところがほとんどのクラスメイトが訳知り顔で頷いている。
不思議に思いつつも、考えてきたことをきちんと伝えようと向き直った。視線の先、教室の一番後ろに佇む藤堂を見つけて少し気が楽になる。
「僕は人の役に立つことが好きだし、だから委員長になった。そこに嘘偽りはない。…だけど……自分で思っていたよりもずっと、足りないところだらけの人間だったんだ。それに気付かせてくれた人から、周りに頼ることも必要だって教わった。…だから」
藤堂と目が合う。ゆっくりと細められたその奥には、確かに励ましが見えた。
「…もし、良かったら、これからはみんなの力も貸して欲しい」
どのくらいの間、息を詰めていただろうか。一分だったかもしれないし、十分だったかもしれない。永遠にも思える時間の中で、何人かの生徒が立ち上がった。
生意気だと腹を立てて、出ていってしまうのか―――
慌てて口を開くよりも早く、揃って頭が下げられた。瞬く僕に、堰を切ったように各方面から投げかけられる言葉。
「委員長…ううん、正木くん。今まで本当にごめんね。それと、ありがとう」
「いつも色々動いてくれてるの、ちゃんと知ってたよ!」
「私たちも頼りすぎてたなって反省してたんだ…」
「いいんちょー!俺感動したぞー!」
「文化祭、頑張って良い劇にしよう?…もちろん一緒に!」
もう駄目だった。この年になってとか、人前でとか、何も気にしていられないくらい、ただただ嬉しくて。溢れる涙を止められそうにない。
「…な?だから言ったろ」
いつの間にか隣で微笑む藤堂。涙でぼやける視界の中、それでも鳶色の双眸だけはしっかりと見えた。
頷く僕の腕を引き、回転した後に収まった腕の中。
ずっと背負わされていた、いや、ひとりで勝手に背負っていた十字架をやっと下ろすことができた気分だ。
クラスメイトからの壁になってくれる体温は、一番欲しかったもの。それだけでも泣きやめそうにないのに、目の前の男は。
「お前は必要とされてる、って」
聞いたこともないような優しい声で、存在意義をくれる。頑張ってきた過去は無駄じゃなかった。
これからも――いや、これからは。この愛しい不良の隣に居たいと、そう思う。
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