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衣装が、と喘ぐように紡いだ女子は泣き出しそうな顔で首を振った。たどたどしい説明から察するに、 「――無くなっ、た…?」 「な、何度も確認したんだけど、でも、ひとつも見つからなくて……っ、どう、しよう…!」 衣装係のリーダーを健気に務めていた彼女はそのまま崩れ落ち、周囲に支えられながら椅子に体を預けた。衣装を手伝った僕も、やり切れない思いで歯噛みするしかなく。 「……衣装のことは俺に任せてくれるか。王子役の代わりは―――」 静まり返った教室に凛と響いた声。縋るような気持ちで、声の主、藤堂を見れば視線がかち合う。 「…出来るか?」 疑問形のはずなのに、どこか有無を言わせぬ口調。他人に命令することに慣れたその声音を不快に思うことはなく、むしろ萎みそうな心を奮い立たせるには充分だった。 「やれるだけ、やってみるよ」 「書いた委員長ならセリフ覚えてる部分もあるかもな!」 「じゃあ私達も手伝うね、取りあえず髪の毛を軽くセットして――」 メイク係の女子達に引っ張られながら、移動するさなか。するりと教室から抜け出す藤堂を視界の隅に捉えた。

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