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「15分くれ。立ち回りも含めて覚えるから」 「あ、うん…それはいいけど…」 「そんな時間で足りるのかな…?」 戸惑う女子はそれでもヘアメイクに手をつけた。 何故か代役を自分がすると言い出した藤堂は、椅子に座って台本に目を通している。周りでくるくると動く女子。そこだけ切り取ってみれば、まるでどこかの楽屋のようだ。 (……なんか…世界が、違うなぁ) 分かっていたことだけれど、改めて育ちの差を見せつけられると堪えるものがある。ほぼ全くの初見で劇を覚えるなど、自分には到底無理だ。 その(かん)にも藤堂は、見目の良い王子様に仕立て上げられていく。片側に寄せられ流した黒髪を耳にかけ、前髪を軽く上げれば整った相貌が惜しげもなく晒される。ほう、と息をついた女子が化粧のために顔を触って―――つきり、と痛む胸。 そんなに役不足だっただろうか。眼鏡はかけていたものの、自分でもそこまでひどい王子だとは思わなかったのに。 悶々とする中、変身の終わった藤堂がこちらに視線を向けた。 「あいつら呼んできてくれるか。多分その辺をうろうろしてる筈だ」 「あいつら…?」 首を傾げれば数名の名前を告げられて。確かに姿を見ていない、と頷く。 「時間がない。1回通したら本番になるだろう」 という藤堂の声を背に、教室を飛び出した。

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