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第8話*

 言いつけた物を全部揃えて周防は僕の隣に座った。 「これでいいか?」 「うん。あ、これ新商品だよね。気になってた」 コンドームの箱を取り上げてパッケージを眺め、裏側の説明書を読む。 「引き攣れる感じがなくていい。あとで使ってみるか?」 「うん」 さばけた会話のあいだに、周防は僕のカットソーの裾から手を差し込んでいた。 「性急だね」 「これでも我慢してる」  僕は周防が手を動かしやすいように、抱えているクッションに向けて前屈みになって、背もたれから背中を離した。  大きな手が僕を安心させるように、背中全体を撫で回し、ときどき指先で背筋を撫で上げる。  撫で回す範囲は少しずつ広くなってきて、脇腹や肩、腰の下着の内側まで掠めていくようになる。  熱すぎない、冷たすぎない手の優しく触れる感触に思わず肩をふるわせ目を眇めたら、まだ半分コーヒーの残るマグカップが取り上げられた。  僕はそれを合図に抱えていたクッションを放り出し、両腕を周防の首に絡める。 「積極的だな」 「チャンスは逃さないことにしてる」 「いい心掛けだ」 僕は誘導されるまま、ソファに座る周防の腰を跨ぎ、向かい合って座った。  こんなときに見つめ合うのは恥ずかしくて、目を伏せ周防の首に抱き着いた。  首筋にキスをした。逞しい筋肉を内包した皮膚が少し熱く感じる。そのまま唇を少し冷たい耳に移動させた。周防の形のいい耳にそっと口づけ、背中へ与えられている刺激のままに吐息を吹き掛ける。 「周防の手、あったかくて、気持ちいい」 周防は僕のこめかみに頬をあて、口の中でキスの音を立てた。  この反応でOKと言われている気がして、僕はもっと素直になる。  周防の耳朶をそっと口に含んで吸って、耳殻の溝を舌先で辿って、奥まで舌を差し入れて探る。周防の身体が小さく跳ねて、僕は周防の頭が逃げないように両手のひらで後頭部と側頭部をそっと押さえ、舌先での愛撫を続けた。 「周防。くすぐったい? 感じる? どっち?」 「感じる」 頬を上気させ、目を細めて、熱っぽい吐息と一緒に素直に答えたご褒美に、僕もキスの音を立てた。それだけでも周防の身体が小さく震えた。 「耳、弱いね。そういえば内緒話も苦手だよね」  僕は調子に乗ってふうっと息を吹きかけ、さらに鼻に掛かった甘ったるい声を聞かせた。 「佐和、そのままでいろよ」 意味がわからずにいたら、周防は僕のカットソーをまくり上げて、いきなり胸の色づきを唇で覆った。 「あっ!」  舌を押しつけ唾液で濡らしてから一旦口を離して外気に晒し、さらにふっと息を吹きかけて粒を尖らせてから、再び口を寄せて舌先でなぶって見せる。 「ああっ、いや……じゃないけど、ううっ……」 「気持ちいいか?」 舐める合間に問われて、僕は正直に答えた。 「ん。気持ちいい……」 「ほら、もっと抱きついて、俺の耳にエロい声を聞かせろ」  大きな手で背中を押され、僕は周防の頭を抱いて敏感な耳に変な声やエロい吐息を流し込みまくった。 「はあっ……きもちい……。あ、ん。周防。……だめ、これだけでいきそう。周防。んっ、そんなにしたら……。ねぇ、周防……」 始めは周防をからかい半分、煽るつもりで声を出していたのに、周防の舌の動きは巧みで、胸の粒は周防の思いのままに転がされ、ときどき唾液をすすりあげるのと一緒に吸い上げられたりして、甘いもやもやした感覚は快感に変換され、僕の腰のあたりに溜まっていった。 「ちょ、待って。周防。……やばい。腰が動いちゃう……っ」  じっとしていられないくらい気持ちよくなって、腰を振りたい衝動に駆られた。でも僕の腕の中には周防がいる。周防の目は開いていて、僕の背中は隙あらば反り返って周防の胸に腰を突き出そうとしていた。 「動かせばいい」  周防の大きな手が僕の尻を撫で回し、撫で上げるときに中指の先をすうっとチノパンの縫い目に沿わせる。さらにはトントンとリズミカルに腰を叩いて、僕に腰を振るように促してきた。 「やだっ、恥ずかしいっ」 「今さら?」 「い、今さらでも何でも恥ずかしいっ。腰振るのは恥ずかしいからやだっ」 部屋の照明は明るいままで、互いの姿は全部見えていて、しかも相手は大好きな周防だとわかっているのに、本能に任せた間抜けな動きなんてしたくない。 「セックスなんて恥ずかしさを楽しむものだろう。頑張れよ、セフレ」  僕の胸の色づきを唇で覆い、舌先で粒を捏ねながらソファへ押し倒すと、僕の胸を舐めたまま、自分の手先を見ることもなくカットソーをたくし上げ、僕の顔に衿を引っ掛けることもなく、するりと脱がせた。背中全体に触れるソファの張り地は滑らかだった。 「今まで何百枚の服を脱がせてきたのか」 「さあな」  周防は僕の耳に苦笑を残し、膝立ちで僕の腰を跨ぐ。顎を上げて僕を見下ろしながら、衣擦れの音をさせてネクタイを引き抜き、ワイシャツのボタンを外し、アンダーシャツを脱ぎ捨てた。 「見せつけるね」 「俺に余裕があるのはここまで。変な声も出すし、間抜けなツラも晒すし、腰も振る。全部見ていいぞ」  周防は僕の胸に倒れ込んで来るなり、顔を擦りつけ、隙間なく唇を押しつけ、舌を這わせ、匂いも嗅ぎ、腰骨の皮膚にむしゃぶりつきながら僕のチノパンを脱がせた。舌先でそっと僕の臍をくすぐりながら背中を丸めて自分のベルトを外し、トラウザーズを脱ぎ捨てると、下着には雄蕊の形がはっきり浮き出ていた。  僕の目は勝手に周防の雄蕊を見た。思わず喉を鳴らし、無意識に手を伸ばしてしまう。周防は僕の手首を掴んでその硬さへ導いた。僕の手が形に合わせて包み込むように触れると、周防は目を閉じてため息をついた。  周防の雄蕊は僕の手の中でさらに質量と硬度を増した。僕の手のひらには収まらないほど大きい。周防は僕の手に自分の手を重ねると、ゆっくり腰を動かして僕の手のひらにその硬さを擦りつけた。 「周防……」 「佐和の手が気持ちよくて、勝手に腰が動く」 少し照れたように小さく笑って、くねらせながら腰を動かした。自分が率先して痴態を晒すなんて、まったく優しい性格をしている。僕は周防の雄蕊の形を手で撫でながら、自動車整備士のように周防の身体の下へ潜り込んで、下着を引き下ろした。僕の目の前にはふるんっと揺れて上向く雄蕊があった。  僕は先端に指を掛け、自分の口に向けて引き下げる。 「佐和……?」 「奥までは飲み込めないけど」 僕は歯が当たらないように唇で覆いながら周防の先端を口に含んだ。 「あっ、佐和っ」  舌や唇に触れる周防の雄蕊は滑らかだった。裏側に浮き出る筋を舌先で舐め上げ、笠と茎のつなぎ目を舌でくすぐり、舌を回して張り出した笠のふちを舐めた。 「はあ……っ」  周防は亜麻色の髪を振り上げ、天井へ顔を向けた。僕が頭を浮かせて前後に動かすと、深呼吸して耐えていたが、僕の口の中にはさらさらとした塩気のある液体が溢れた。  僕は周防の下着を全部脱がせて床に立たせ、自分も下着を脱ぎ捨てて周防の前に膝を突いた。周防が見せてくれるなら、僕だって。  改めて周防の根元を手のひらで包んで扱きながら、先端を口に含んで口淫する。  膨らむ頬に周防の手が滑るのを感じながら、僕は僕の興奮を反対の手で包んでゆっくり扱いた。 「佐和……」 僕の姿に気づいた周防は、さらに雄蕊を硬くした。  僕は返事する言葉が見つからなくて、周防の反応を無視して、刺激する手を早め、口の中を唾液でいっぱいにしながらぬるぬると舐め回した。  周防は洗いざらしの僕の髪を撫で、暖めるように肩を撫でてくれながら、僕の自慰に視線を奪われていた。僕の手は僕のこぼす透明な液体で濡れ始めていた。 「ああ、佐和」 周防は深呼吸で快楽を逃しながら、僕に身を任せて刺激を楽しんでいるようだった。  でも、僕の口の中に止めどなく先走りがあふれ、飲み込むのが追いつかなくて口の端から垂れる頃になると、周防は苦しそうに言った。 「だめだ、もう出そうだ。口を離してくれ、佐和」 僕は無視して、さらに手を早め、頭を前後させて唇でも扱いた。 「佐和。もう出るから。佐和。佐和!」  それでも僕が無視して刺激を続けたら、周防はため息をついた。 「いいのか?」 見下ろす周防を上目遣いに見返し、頬を膨らませながら頷くと、周防はゆっくり目を閉じて息を吐いた。 「佐和。佐和……。佐和……」  目を閉じ、亜麻色の髪を振りながら、うわごとのように僕の名を繰り返し呼んで、小さく身体を震わせた。ぐっと腹筋に力がこもるのと同時に周防の息は止まり、僕の口の中へ夏のプールみたいな匂いのする液体が流れ込んできた。僕は自慰を続けながら、口内に溜まっていた唾液と一緒に周防の精液を飲み下した。  周防は大きく息をつき、ゆっくり目を開ける。始めはぼんやりしていた焦点が少しずつくっきりしてくるのが見ていてもわかって、我に返った周防は慌ててティッシュボックスを掴んだ。 「飲んじゃった……」 僕が手の甲で口を拭いながら申告したら、周防は息を吸い、吐き、もう一回吸って、自分の手のやり場に困ったように空中で意味もなく動かしてから、僕の頬を両手でぱちんと挟んだ。 「口へのキスは禁止なんてルールのせいで、舐めてやることはできないんだぞ?」 「いらないよ。自分の匂いがするキスなんて、したくなくない?」 「したくないが、したいだろう?」 「意味わかんない」  さっぱりした気持ちで立ち上がると、タックルするように周防が僕の腰を抱いた。 「俺にも仕返しさせろ」 「そういう無理はいらない」  逃げ出そうとする僕を周防はそのまま自分の肩へ担ぎ上げ、ソファの上のバスタオルとコンドームとローションを大きな手で一掴みにして、寝室に向かって歩き始めた。

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