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第12話*
僕があくびをしたのをきっかけに酒宴はお開きになり、片づけと寝支度をして布団を敷き詰めた和室へ行った。
一緒の布団で寝てもいい、なんて言ってしまったけど、いざとなると少し怖じ気づく。周防を好きじゃなければ、嫌われる心配もいらなくて、遠慮なく布団に潜り込めたのに。
「明日は9時でいいか? だいぶゆっくりできるな」
周防はスマホのアラームをセットしながら、僕の枕を拾い上げて自分の枕の隣へ移動した。なるほど、こうやって同衾 を当たり前のことにしていくのかと僕は学ぶ。
「電気消すぞ」
電灯から下がる紐を引っ張るときには、僕は周防に背中をそっと押されて促されて、先に布団にもぐりこみ枕に頭を乗せていた。
オレンジの常夜灯が淡く灯るだけの暗闇で、周防も布団に入ってきた。僕は軽く頭を上げて周防の身体が落ち着くのを待ち、そのしっかりした肩へ頭を乗せた。
周防は僕の頭が肩から落ちないように手を回し、ふたりで寝心地のいい場所を探して少しもぞもぞして、すぐに安堵の息を吐いた。
「落ち着く……」
「ああ」
周防の鼻先が僕の髪を掻き分けて、ゆっくり息を吸い、ふんわりと温かい息を吐いた。
「明日、楽しみだね」
「ああ。明日の午後は紅葉岩のあたりに行きたいな」
「いいね。砂倉の洞窟までドリフトもしたい……」
「そのコースもいい」
周防の首筋の脈に、自分のこめかみの脈をくっつけて、声帯が震える振動や胸腔に響く声、大きな手が髪を撫でる感触に、僕は全身から力が抜けていくの心地よく感じていた。
「……眠っちゃいそう」
「いいよ。おやすみ」
瞼を周防の大きな手に覆われて、僕は周防の身体へ向けて引き込まれていくように眠りに落ちた。セックスでいくときと方向は真逆だけど、同じくらい気持ちのいい落ちかただった。
誘っておきながらセックスしなくて悪かったな、なんてちょっと思っていたからか、明け方に少し変な夢を見た。
1年前にもこんな夢を見たと思いながら、僕は青白い光の中で周防の愛撫を受けてふわふわと心地良かった。僕は感じているのに、身体が眠っているからか、少し眉間に力を込めるだけで声も出さず、息を詰めて、吐いて、それだけで周防に快感を伝えていた。
周防も僕の頬に頬を押しつけているだけで何も言わなくて、ただシャツの下でゆっくり僕の身体を触り、その手がそのまま下着の内へ滑り込んできて必要な場所だけ露わにされて、温もりと摩擦が与えられた。
「周防……僕だけ、いっちゃう……」
かすれた吐息で告げると、周防は僕の額に唇を押しつけた。
僕は周防の顎の下に潜り込んで目を閉じ、促されるままに解き放った。目を閉じている間に瞼を手のひらに覆われて、僕の夢は終わった。
実際にセックスしたのは、朝になってからだ。
いつもの起床時間に目が覚めて周防の寝顔を見ていた。
深くて規則正しい呼吸や、薄く開いた唇、眼球を覆う薄い瞼、眼窩のふちに沿って生える眉毛の一本一本、顎から首にかけてのカーブにぽつんとできた小さなカミソリ負け。一緒に服を買いに行ったときにピアッサーを見つけて「佐和、開けてくれる?」って訊かれたけれど怖くて断ったきり、ピアスホールはあいていない耳たぶ。
そんな姿のどこに誘われるのかわからないけど、僕は周防の隣で頬杖をつきながら欲情していて、下腹部に熱を感じていた。
「ん」
周防が薄目を開け、眩しさに目を閉じる。手探りで僕の首の下へ自分の手を差し込んできて、そのまま抱き寄せられた。
べたついた頬と頬をぎゅっとくっつけて、僕は周防の耳朶をそっと食み、周防の腰に自分の脚を絡めて、そのまま馬乗りになった。上体を起こし、周防の朝の猛りを脚の間に感じながら、僕は身体の前で両手を交差してTシャツの裾を掴み、身体から引き抜いた。さらにハーフパンツも下着も脱いで、全裸で周防の身体に覆い被さる。
周防の髪を手で撫でながら耳を舐め、興奮する吐息をそのまま聴かせて耳許でねだった。
「周防が欲しい。させて……」
僕は息継ぎの合間に興奮した息を吐きながら、周防の髪の生え際から顎まで唇を押しつけ、首筋に食らいつくようにキスを繰り返しつつ、シャツの上から周防の身体を撫で回した。
脇腹を撫で下ろして腰まで手を這わせ、Tシャツの裾から肌に直接手を這わせてTシャツを脱がせる。周防も素直に頭を浮かせてシャツを脱ぎ、僕は露わになった上半身にキスと愛撫を繰り返した。
周防は眩しそうに目を細め、僕の背中をゆっくり撫でながら、下手な愛撫を見てときどき息を逃す。
胸の飾りを口に含み、舌先でちろちろと転がしていたら、周防の両手が僕の尻を掴んで揉み始めた。割り広げられて秘所が外気に晒され、僕はぶるりと身体を震わせる。
「だめ、周防。できなくなっちゃう」
訴える僕を抱き締めて、周防は苦しそうな声を出した。
「俺も我慢できない。全部脱がせて。佐和の中に入りたい」
僕が周防のハーフパンツと下着を引き下ろすときには、大きく手前に引っ張らなくてはいけなかった。それでも先端が引っ掛かって欲の塊はふるんと揺れて腹を打つ。
「うっ、佐和っ」
「ごめん、ごめん」
僕は笑って必要な物を手元に揃えてから、周防の昂りを口に含んだ。
「いいから、佐和。早く……っ」
「だめ」
呻く周防の姿を楽しみながら、僕は熱い塊に舌を這わせ、同時に自分の後孔へローションを塗りつけて、少しずつ自分の指を差し込んだ。
「ん……ん……」
僕の変な声に、仰向けになって目を閉じていた周防が目を開けて頭を起こした。
「うっ……」
「見ないで。恥ずかしいから」
「そんなの、見るだろう」
「やだ。……んっ、はあっ……」
周防を噛んでしまう前に口を離し、手のひらに包んで刺激しながら、僕は2本目の指を埋めた。僕は僕の与える刺激に尻を揺らし、僕の手の中の周防はさらに硬くなっていく。
「周防……っ」
見られたくない恥ずかしさと、周防が反応する嬉しさ、肌を滑る周防の視線、ときどき息継ぎするように天井に向かって吐き出される周防の息。そういうものが全部集まって性的な興奮になっていた。
「ごめんね、女の人みたいにスムースにいかなくて。お待たせ」
指が3本入るまで時間を掛けてから、僕はようやく周防の興奮に薄膜をあてた。僕は改めて周防の腰を跨ぎ、たっぷりローションを塗りつけた屹立を後ろ手に持って、ゆっくり腰を沈めていく。
割り広げられる衝撃を息を吐いてやりすごしながら、さらに腰を沈めて少しずつ飲み込んだ。ようやく全部を飲み込んだとき、僕は起き上がった周防にきつく抱き締められた。
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