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【番外編】バレンタインデーのお返しをした*
「あ……ん、すおう……そんなに、しないで……はあっ、んんっ、ダメ……またきちゃう……っ」
佐和は甘い声を上げ、右手で俺の頭を抱きながら、左手の甲を口にあてる。六月には指輪を嵌める予定の薬指に前歯を立てて、空いた隙間から熱く長い息を吐いてセックスを楽しんでいた。
「今日は寒いから、バレンタインデーのお返しはベッドの中で」
そう誘って朝から耽溺し、遅いランチタイムに一糸まとわぬ姿のまま、バナナパンケーキを焼いて食べて、窓の外に今年初めての雪を見た。
コーヒーを飲んでベッドに舞い戻り、うたた寝をしては互いを求めあって、有意義な時間を過ごしている。
俺は唾液で濡れた乳首を指先で捏ねながら、反対側の乳首も同じように口に含んで舌先で転がす。
佐和の身体が跳ねて硬直し、ふわりと弛緩する。
軽くイクくらいで愛撫の手は緩めない。逃げを打つ佐和の身体を抱き締め、さらに乳首をしゃぶって、身体の中へ快感を目一杯押し込んでやる。
「や……っ。すおう……すおう……しないで、そんなにしないで」
黒髪を左右に振り、汗に濡れた頬に貼りつかせ、佐和は甘い声を上げる。
「ほら、こっちの乳首でもイッて、佐和」
開花宣言と同時の雪に震える桜の蕾のように、硬く色づく佐和の乳首を舌先でなぶる。同時に反対側を指の腹で撫で回し、爪弾く。佐和の身体の震えが小刻みになって、顎が上がってきたら、タイミングを過たず、ギュッと摘んで仕上げる。
「あっ、あああああっ!」
佐和は背中を浮かせて仰け反った。
もともと乳首は性感帯だったようだが、俺とセックスするようになってますます敏感になった。唾液まみれの胸を上下させ、佐和は俺の首に両腕を絡げる。
「お願い、周防。もう許して」
「ダメ」
呆れたように笑う佐和に、俺はキスの雨を降らせる。
「バレンタインデーにあんなプレゼントをもらって、この程度で済ませるほど俺は薄情じゃない」
「そんなに立派なプレゼントじゃないよ」
「俺はめちゃくちゃ嬉しかった」
佐和の身体に溺れるように覆いかぶさり、再び唇を重ねて舌を出会わせる。佐和の舌を吸ってしゃぶると、佐和はまた鼻にかかった声を上げ始めた。
吸っていた舌に誘われて佐和の口内へ忍び込めば、背中を抱かれ、ターキッシュディライトを味わうように舐め回されて、俺のほうがイキそうだ。
そのまま攻守交替で、俺は佐和の下に組み敷かれる。俺の腰を跨ぎ、見下ろす佐和の姿は最高にクールで全身が痺れた。
素直に佐和のリードに任せ、耳を舌で愛撫される。耳朶を吸われ、耳の奥まで舌先が差し込まれて、その心地よさに耐えきれず目を閉じた。
舌と唇の柔らかな感触や水音の合間に、熱く切ない吐息が吹き込まれる。
「周防。愛してる」
心臓を射抜かれて、軽くイッた。
大人しくベッドに寝ていられるか、ちくしょう。
俺は起き上がり、再び身体の下に佐和を組み敷いた。
「俺のほうが、もっと愛してる。佐和には負けない」
「何それ?」
佐和は笑って、この笑顔を一生隣で見ていられる約束をするなんて、改めて結婚が楽しみになった。
ローションのチューブを掴み、佐和の膝を割る。そのまま沈みこんで、まずは紅色の秘所へ舌を突き立てた。
「それ、やだってば。やめろって!」
暴れる腰を捕まえて、佐和の手にギュッと髪を掴まれたまま、俺は愛情を込めて舌を蠢かせた。
佐和が嫌がる気持ちもわかるが、相手の脚の間に顔を埋めて、熟れきった果実を啜るように舐め回したいという自分の衝動にも抗えない。
「無理……っ、はあ……んっ。やあっ」
佐和は俺を蹴らないよう、身体の力を抜いて観念し、熱い息を繰り返し吐いていた。
「僕、本気でやだって言ってるのに……」
佐和は拗ねたような声を出したが、負けずに舌先をねじ込んだ。
甘く引きずる声に変化して、かかとでシーツを蹴り始めたら、俺はすかさずローションを絞り出して、佐和の蕾へ指を滑り込ませる。
「そこっ、触んないでっ!」
「愛する人が感じるポイントだって知ってるのに、触らずにいられるか」
クルミ大の器官を、指の腹ですり潰すように刺激して、佐和はまぶたの上に腕を乗せたまま、はあはあと荒い呼吸をする合間にだらりと白濁を零した。
もちろん一滴残らず舐めとって、くったりと力の抜けた佐和の身体へ、己の分身を突き入れた。
佐和は喉を晒したが、繰り返し絶頂した身体は熟れてぐずぐずに蕩けていて、俺の侵入を容易く許す。
熱く柔らかな内壁に包まれて、すぐ我慢できなくなって腰を振った。
雪で凍えた身体を湯に浸すような痺れと快感が湧き上がる。
佐和も頬を上気させ、俺の律動に合わせて鼻にかかった声を上げていた。黒目がちの瞳は潤みきって、目尻から耳へ涙を流しながら、腰を掴む俺の手に、自分の手を重ねていた。
次第に内壁が俺の怒張を締めつけるようになってきて、佐和は眉間に悩ましげな皺を刻んだ。
「あっ。イッちゃう」
「何度でもイけばいい。グズグズに蕩けて、俺以外のことなんか考えられなくなっちまえ」
伸び上がって逃げようとする身体を引き戻し、俺の下腹部へ押しつける。最奥を突かれた佐和は全身を震わせた。
「僕、本当にもう無理……」
顔の横に力なく両手を挙げて、俺はようやく自分の我慢を許すことにした。
「じゃあ、次で最後。俺がイクのに付き合って」
佐和は頷き、両腕を俺の首に絡げた。
そのまま身体を抱え起こし、ベッドの上に座る俺の腰の上に佐和を座らせる。
「あんっ!」
佐和は自重で俺の剛直を深く飲み込み、また身体を震わせている。
イッている間に動き出すのも手法だが、一日の終わりは丁寧に抱き合いたくて、佐和の意識が戻るのを待った。
「佐和、動いていい?」
「ん。僕も動く。一緒にイこ……」
俺の首にきゅっと抱きつき、舌足らずにそう言う佐和はものすごく可愛い。佐和は可愛いと言われても嬉しくないと感じるタイプなので、可愛いと告げる代わりにキスをして、少しずつ突き上げた。
佐和も俺のキスに応えて、ふわふわのキスをしてくれながら、イヤらしくこねるような腰つきをする。二人の腰のゆらめきが、集まる波が高まり合うように快感を高めて、俺たちはきつく抱き合う。
「気持ちいいね、周防」
「ああ。とても気持ちいい」
「周防、大好き。気持ちいいお返しをありがとう」
「どういたしまして。佐和、愛してる」
愛おしさが溢れて止まらなくなった。もし自分の愛おしさが海水でできていたら、俺たちにはダイビングの装備が必要だ。
水面 の太陽を見上げるように、佐和の白く光る喉を見る。尊敬や憧れや親近感や信頼、あらゆる感情を「愛してる」という一言に込めた。
「佐和。ずっとずっと愛してる」
この世で一番好きな人を腕に抱き、最奥で爆ぜる。溢れて全身を巡る快感と喜びの大きさに、俺は全身を震わせ、堪えきれず咆哮した。
湿ったシーツの上に倒れ込み、佐和の手を握った。
「明日、潜りに行こうか。視界はよくないだろうけど」
こんな唐突で実現性の低い提案でも、佐和は俺の手を握り返す。
「いいね。前が見えなかったら、一緒に手探りで進めばいいんじゃない。僕たち、学生の頃から、手探りの状況には慣れてるよね。つないだ手を離さなければ大丈夫だよ」
「佐和のそういうところ、めちゃくちゃ好きだ。来年も再来年もずっとずっとお返しをする。とりあえず今年の分をもう一回!」
「もう今年のお返しはいらない! くすぐったい!」
飛びかかる俺を胸に抱きとめ、佐和は声を立てて笑っていた。
窓の外はみぞれ混じりの冷たい雨に変わっていたが、重なる肌はあたたかく、不安も孤独も打ち負かす頼もしさがあった。
佐和とずっとずっと一緒にいたいし、佐和にもそう思ってもらいたい。
「早くプロポーズしたい」
「うん。次のストロベリームーンが楽しみだね」
月色の間接照明を浴びながら、俺たちは微笑みあってキスをした。
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