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【番外編】バレンタインデーの朝、枕元にチョコレートを置いた。*

 早朝、サンタクロースのような気持ちで、枕元にチョコレートの箱を置いた。  真夜中に周防が寝てから、あふれる気持ちのままに、いつもありがとう、好きです、愛しています、これからもよろしくと、細かい字で綴ってしまったハート型のカードと、さらには真っ赤なバラも一輪添えた。 「うっわぁ……ロマンチック。ありえない」  こんな光景は、気恥ずかしくてとても見ていられない。僕は寝室から逃げ出した。  カードの文言に悩み、枕元にプレゼントを置くという慣れないやり方を選んだことで、僕は緊張のあまり寝不足のまま朝を迎えていた。  変に冴える頭に温かいシャワーを浴びて、頭と身体を洗っていたら、勢いよくバスルームのドアが開き、周防がパジャマ姿のまま飛び込んできた。  自分が濡れるのも構わず、泡だらけの僕を抱き締める。 「佐和! 今までの人生で一番嬉しいバレンタインデーをありがとう。とても感動した。心の底から愛してるっ」 「う、うん。喜んでもらえたなら、よかった……とりあえずパジャマ、脱いだら?」  顔中に押しつけられるキスの合間に、周防のパジャマのボタンを外し、濡れた身体から引き剥がす。    周防も素直に脱いで、引き締まった裸体を僕の眼前にさらした。ついでに頭と身体を洗ってあげたら、嬉しそうに大人しくしていて、まるで犬のジョンのシャンプーみたいだと思う。  入れ違いに周防は自分の手に直接ボディーソープを泡立てて、僕の身体を洗うように愛撫してくれた。  まだひげを生やしたままの男くさい周防の姿に僕はときめき、周防は僕の頬や首筋にキスをしながら、さらに乳首をつまんでくれて、僕は身も心も震わせた。 「あ、んん……っ、はあっ、気持ちいい」 「たくさん気持ちよくなって。気持ちいいことは好きだろう?」  耳に口をつけ、甘ったるい声で質問されて、僕は素直に答える。 「好きだけど、だから止まらなくなっちゃう」  出勤時間を気にしてバスルームの時計を見たら、周防はしっかりうなずいた。 「一回だけ。佐和に愛を伝えたら、ちゃんと終わりにする。今日は一日中、1 on 1(ワンオンワン)ミーティングだろう? 少しだるくなっても、椅子に座っていられるから、大丈夫だよな」 「そうだけど、人と話すなんて僕の一番の苦手分野だよ。余裕はないから……あっ、いきなり舐めるなって! き、気持ちいい……あっ、やっ」  乳首に周防の温かくぬめる舌が押しつけられた。そのまま舌先でキャンディを転がすように愛されて、僕は周防の頭を抱いて耐える。周防も僕が逃げないように腰と背中を抱いて、僕の中へ快感を押し込んだ。 「はあんっ、いく……いくっ!」  キュッと強く吸われて、僕の全身には温かくて鋭い快感が駆け巡る。  僕が達しているあいだも、周防の愛撫の手は止まらず、さらに僕を気持ちよくさせようと刺激を続けてくれた。 「ん……、すおう。……はあっ、はあっ、いってるのに、いっちゃう……ああっ、くるっ!」  周防の首にしがみついて、全身に沁み渡る絶頂を味わい、下腹部に周防の熱と硬さを感じた。  僕はそっと指でたどり、その硬さを手に包んで上下に動かした。 「朝からエッチなことばかり考えている周防を、賢者にしてあげる」 「お手柔らかに。最後は佐和の中がいい」  僕はうなずき、周防の前に膝をついた。  周防の分身は鎌首をもたげ、相手の体内に侵入しやすい滑らかな形に変化していた。僕は無意識に舌なめずりをして、唾液をためた口の中へ迎え入れた。 「ああ、佐和……」  周防の大きな手が僕の頭を優しく撫でる。僕がその手に触れると、指が絡め取られて、僕たちは手をつないだ。  口を窄めたまま僕が周防を見上げると、周防は頬を赤くして照れ笑いする。僕は見せつけながら唇で扱き、頬の粘膜や上顎に擦りつけ、裏側の筋や、笠のふちや、先端の鈴口に舌を這わせて、含みきれない根元は手の筒で愛した。 「佐和……ああ……」  周防の分身は、僕の口の中でさらに質量を増し、ビクンビクンと上顎を打つ。  責め立てている舌に周防の熱さと硬さを感じて、僕の喉からも甘い声が出る。 「ん……ふ……っ、んん……む……んんん」  つないでいた手を解いて、周防の乳首を指先でくすぐり、茎を手で扱きながら、囊に含まれている果実を一つずつそっと口に吸った。  外性器や粘液なんて美味しいものじゃない。でも周防の身体は美味しく感じられて、僕は舌を伸ばし、首を傾け、前後に頭を振って、夢中でむさぼってしまった。  周防は、ときどきふうっと天井に向かって息を吐いて、快感の取り逃しをしていたけれど、僕が夢中で味わううちに、さらさらした塩味の液体をこぼし始めた。 「ありがとう、佐和。もうヤバい。佐和の中でイキたい」  優しく頭を撫でて制止されて、僕は先端へのキスを最後に立ち上がった。 「たくさん愛してくれてありがとう。口の周りが濡れてる」  周防の瞳は前戯の最中とは思えない優しさで、僕の口の周りについているよだれを舌と唇できれいにしてくれる。  僕はそのままねだってキスをして、差し入れた舌で周防の口内を探り、上下の唇を吸って口角から口角まで舌先を這わせてくすぐった。周防は僕の腰を強く抱いた。 「マジで限界。いい?」  周防の指先が、僕の尻の谷間をすうっとなぞり、僕はもちろんうなずいた。  僕はシャワーブースの鏡に向かって手をついて立たされ、ローションをつけた周防の指で柔らかく解された。  円を描くように撫で、僕が焦れて声を上げるたびに次のステップへ進む。  指先を数ミリ埋め込まれるだけでも、自分の意思では窄められない戸惑いと快感に変になるのに、さらに奥へ指を押し込み、内壁の膨らみをすり潰すように押されるなんて、脳天を突き抜けるような快感だ。 「あっ、ああっ!」  僕は背後から突き飛ばされたように腰を突き出し、だらりと吐精してしまう。一瞬のできごとに、じりじりと快感の余韻が身体をめぐる。  余韻でぼんやりしているうちに指の本数は増やされ、さらに乳首をつまんで快感を上乗せされて、甘い声を上げながら頭を左右に振っていたら、僕の身体を開くのとは反対の手で、優しく抱き締めてくれた。 「つながってもいい?」  その手にはコンドームがあって、僕はその正方形のパッケージをつまみ上げる。 「つけてあげる」  周防はちょっと嬉しそうな顔をしてから、一応遠慮して見せたけど、僕は周防の足元に膝をついた。  パッケージの端を切り、天を衝くような周防の先端に薄膜をのせて、口で愛するときのようにゆっくりと全体を飲み込む。唇で膜をのばしながら進み、茂みを掻き分けて根元まできちんと覆って、おまけに軽く口淫して口を離した。さらに両手でローションを塗りたくってあげると、周防は熱っぽい息を吐いた。  このつけ方だと、口内の熱や舌の動きに気を取られ、ゴムをつけている感覚が薄れる。僕に口淫させる申し訳なさは感じつつ、でも実は周防はこのやり方を気に入っているみたいだ。  僕は改めて鏡に向かって手をついて、背後から周防を受け入れた。痛みはないけど、せり上がってくる質量には圧倒される。  受け入れたい僕は息を吐いて身体を弛め、暴発したくない周防は息を詰めて腰を進めた。 「あっ、んっ、入ってくる……」  無意識につま先立ちで逃げて、肩を掴んで引き戻され、根元までぴたりと収められた。 「佐和、愛してる」  とっておきの深くて甘い声が耳に押しつけられ、その声は脊髄を流れ落ちて僕の腰を震わせた。  僕は周防の声だけで、たぶん軽くイッていて、恍惚としているあいだに深く愛しあう行為は始まっていた。  周防の熱く強い気持ちが僕の身体へ何度もめり込む。根元まで収めては引き抜いて、もう一度。  繰り返される律動の回数だけ「愛している」と言われている気がした。  僕の粘膜は甘く痺れ、全身に広がって、僕は周防が作り出す波にふわふわと漂う。 「すおう……すおう……」  無意識に片手を鏡から離し、さまよわせていたらしい。手の甲を覆うように掴まれ、指の間に周防の指が滑り込んで、僕の手のひらを握った。  律動は強まり、早くなって、身体の中を掻き回されている僕は、もう自分の身体と周防の身体の区別がつかなくなって、ただ気持ちいいと思っていた。 「愛している……愛してる……佐和っ」  最後に数回強く突き上げられて、僕は霞む意識の中で周防の咆哮を遠くに聞いた。  気づいたとき、僕は周防の腕に抱かれ、温かいシャワーの雨の中にいた。 「大丈夫か。途中からイキっぱなしだっただろう」  こめかみにキスされて、僕はくすぐったくて笑った。 「あー、そうかも。ふわふわして、めちゃくちゃ気持ちよかった」 「俺の愛は伝わった?」 「充分に。僕は周防に愛されてる」  視線が交わり、僕たちの顔には自然に笑みが浮かぶ。互いに唇を突き出して音を立てたキスをして、さらに笑った。  時計を見て、僕は身体を起こした。 「会社へ行こう」  「今日もよろしくお願いします」  立ち上がった周防に差し出された手を握り、僕も立ち上がる。 「こちらこそ、今日もよろしくお願いします」  周防と並んで洗面台の鏡に向かう。  ひげをあたり、歯を磨き、タオルで水気を拭い、髪を調える。段階を経るごとに、周防の表情は引き締まっていく。  これから毎年、死が二人を分かつまで、僕は彼にチョコレートを渡し続けよう。渡せる自分であり続けよう。  強く心に決めながら、僕も髪をオールバックに調え、メガネを掛けた。

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