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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(48)
「ん……っ、ねぇ、お風呂に入ろうよ……。僕、今日はたくさん汗をかいたから、汗臭いよ」
胸の粒を強くつまむたびに身体を震わせながら、佐和は鼻にかかった声で訴える。
「佐和だって、俺の汗の匂いを嗅ぐクセに」
「そうだけど……周防の汗はいい匂いがするもの」
「佐和の汗だって、いい匂いだ」
首筋に舌を這わせ、鎖骨を辿って、腋窩へ鼻を押し込み、やわらかな匂いを大きく吸い込んだ。
「やっぱ、やだ。恥ずかしすぎてダメ……ねぇ、すおう……っ」
佐和の手が俺の髪を掴む。俺は髪を掴ませたまま、佐和の肌から乾いた汗を舐めとるように舌を這わせた。
「佐和の身体、しょっぱい」
わざと言葉に出し、佐和の羞恥を煽る。案の定、佐和の髪を掴む手に力がこもった。
「やめよう……ってば……ぁ」
「佐和が気持ちよくなったらやめる」
たどり着いた胸の粒を口の中で転がしながら、佐和の腰に手を回してベルトを外し、トラウザーズと下着を一気に引き下げた。佐和のもっとも男らしい部分を手の中に握って、ゆるゆると扱く。
佐和は俺の髪を掴んで、ひくひくと身体を震わせていた。
「やめて、すおう……っ」
「気持ちよさに集中したら、すぐに終わる。がんばれ」
「がんばれ……って」
「ほら、快感に集中して」
唾液で濡れた乳首を指で捏ね、軽くつまんで揺する。
「あっ……ん」
乳首を指で刺激しながら、舌で佐和の肌を滑り降り、もっとも男らしい部分を口に含む。
「はあっ! すおうっ!」
俺の口の中で、佐和の蕊は勢いよく膨らんだ。根元に添えた手と唇で先端を露出させ、つるりと滑らかな笠や鈴口に舌を這わせる。
「ああっ、きもち……い……っ」
「ここも汗くさくてしょっぱいよ、佐和」
「うわ……最低……っ」
口の中で俺の唾液と佐和の先走りが混ざり、わざと音を立てて啜った。
「はあっ、ん……お風呂に入りたいよ……」
「あ・と・で」
そそり立つ幹へ舌を這わせながらの大げさなウィンクに、佐和は諦めて枕に頭を落とした。
俺は先端をくわえて舌先で愛撫しながら、根元は手を筒状にして容赦なく扱いた。佐和のつま先に力がこもって丸まる。
「あっ……はぁ……ん……ぅ。はぁっ、ん。んんっ……あんっ、すおう」
甘い声と呼吸は少しずつ速くなってきて、伸ばされた手をつなぐと、佐和は呟いた。
「すおう、出ちゃいそう」
口淫を続けながら、了承の印に佐和の手を強く握る。佐和は悩ましげなため息をつき、身体の力を抜いて、俺が与える快感に集中する。
「あっ、イク……っ」
佐和の腹に力がこもり、数回に分けて青い匂いがする粘液が放たれた。
もちろんすべて飲み干し、管に残る残滓も吸い出して、佐和の腰を跳ねさせる。
「ごちそうさま」
乱れた呼吸を整えようと大きく息を吐いている佐和に、唇を舐めて見せた。
続行を試みて伸び上がり、佐和の上に覆い被さって、首筋にキスをしてみたが、両手で肩を押し返された。
「だめ。僕を食べるときは、よく洗ってから」
「了解」
バスタブに湯を張り、熱いシャワーでシャワーブースを温めてから、壁面に取り付けられた椅子へ佐和を座らせた。
黒髪へ丁寧に湯を行き渡らせ、両手に泡立てたシャンプーで髪を洗う。さらに朝から緊張していた頭皮を揉みほぐし、1日の汗だけでなく疲れも流れていってほしいと願う。
「気持ちいい……」
佐和は目を閉じたまま嬉しそうに微笑んでいて、俺は喜んでくれたごほうびに頬へキスをした。
全身へ泡立てたスポンジを滑らせ、敏感な場所はそっと手で洗った。
「ありがとう、周防」
「どういたしまして」
返礼に、佐和も俺の髪と身体を抱くように洗ってくれて、一緒にバスタブへ身体を沈める。
いつもは俺の脚の間に後ろ向きに座り、胸に寄りかかってくつろぐ佐和なのに、今日は脚を開き、俺の腰をまたいで向かい合わせに座った。
俺が両手を広げて抱き寄せると、そのまま小猿のように俺の首に腕を絡めて抱きついてきた。
「充電させて」
「プラグも挿す?」
「え? プラグ? ……ああ、そういうこと。あとでね」
意味を理解した佐和は笑いながらそう言って、俺の頬にキスをした。
「頬にキスされるだけで、心臓が跳ね上がる」
「僕、周防にたくさん愛されてるね。僕も周防のこと、とってもたくさん愛してるよ。夜中に会いたいって言われたら、千里の道も駆けつけるくらい」
「同居していたら、そういうシチュエーションはあまりないけどな」
「そうだね。いつでも手を伸ばしてくれたら、僕は周防の隣にいるよ。それが生涯続くなんて、僕たちの結婚は、とてもロマンチックだね」
そう言って、また頬にキスをしてくれる。
「ああ。とてもロマンチックだ」
あふれる思いのままに佐和を抱き締めたら、佐和も俺を抱き締めてくれた。そして俺の顔中にキスの雨を降らせてくれる。
佐和がくれる顔中へのキスは、セックスへの誘いだ。
俺は両手で佐和の脇腹を撫で上げ、唇で唇を掴まえてやわらかく触れ合わせ、舌を滑り込ませて、佐和の舌を絡めとった。舌がまとっている蜜をなめ取るように、互いの舌をなめ合って、下腹部に官能の炎が小さくともるのを感じる。
左右の親指で佐和の胸の飾りに触れたら、佐和は俺の頭を抱き締めた。
「ベッドで待ってて」
のぼせたような声が耳に流し込まれて、俺は素直に従った。
全裸のままベッドへ潜り込み、明日の出発時間から逆算してアラームをセットする。今日、両家に結婚の挨拶に行きたかったのと、少しでも多く佐和と一緒の時間を過ごしたかった余波で、明日は明け方には起きて始発の飛行機に乗らなくてはならない。
スマホでチケットとスケジュールを確認し、現地で落ち合う予定の蒲田さんから届いていたメッセージに返信をする。
『わかった。宇佐木をピックアップしてから行く』
ベッドサイドでバスローブを脱ぎ落とした佐和が隣に潜り込んできて、バックライトに照らされている俺の顔を見る。
「アージェント・リクエスト ?」
「そんなでもないけどな。トラブル対応で宇佐木がまだ東京に残っているらしい。蒲田さんを先に送り出して、宇佐木はチケットを明日の始発に振り替えて時間ギリギリまで粘るから、一緒に連れてきてくれって」
「宇佐木くんは助手席で寝られるけど、周防の睡眠時間が、ますます短くなっちゃうね」
このまま寝かしつけられそうな話の流れに、慌てて佐和を組み敷いた。
「俺がぐっすり寝られるように、佐和の中で疲れさせてくれ」
佐和はニッコリ笑って頷いた。俺はその笑顔に溶かされ、身体に溶かされた。佐和の肌へ自分の汗を垂らしながら疾走し、最奥で思いの丈をぶちまけた。
翌朝、日の出より先に身仕度を調え、ルビーレッドのスーツケースに手をかける。
隣のサファイアブルーのスーツケースは佐和のもので、明日の午後には合流して現地のホテルでまたふたつのスーツケースが並ぶ。
「今夜だけ、寂しいけどな。浮気すんなよ?」
まだ眠っている佐和の額に唇を触れさせて、夜明けの街へ出た。
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