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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(51)

 どうやって愛の時間を楽しもうか。  俺は舌なめずりをしながら、部屋の中を見回す。  街を見下ろす大きな窓、猫足の豪奢なソファ、全身を映す磨かれた鏡。クローゼットには締め心地のいいネクタイがあり、アイマスクと耳栓も持っている。  淫らな佐和の姿を思い浮かべるだけでイキそうだ。  佐和の身体を翻弄し、快感をコントロールして、泣かせてみたい。佐和が遂げそうになるたびに刺激を止めて、何度も我慢させてから一気に絶頂を迎えさせたら、我を忘れて楽しんでもらえるだろうか。  夜が明けて空が白むまで、この部屋の中を一緒に転げ回るのもいい。佐和を捕まえては己を突き立て腰を振り、遂げる前に逃げられては追って、ヤルことしか考えられないけものに堕ちて、痛いほどに張り詰めたものを頼りなく揺らしながら、床を這いずり回るのも楽しそうだ。  しかし、バスルームから出てきた佐和の姿を見た瞬間、俺はとても優しい気持ちになってしまった。  セックスをして遊ぶのも楽しいが、予定を繰り上げて東京から駆けつけてくれた佐和とは、今はセックスをして愛し合いたい気分だ。  両手を広げ、笑いかける。佐和も俺の腕の中へ入ってきて、はにかむように笑った。 「お待たせ、周防」 「待ってない。楽しみにしていた」  互いのバスローブを床へ落とし、やわらかなベッドの上、清潔なシーツのあいだへ一緒にもぐりこんで、ひとつの枕に頭を寄せる。  俺はシーツを掴んで頭の上まで引き上げた。秘密基地のような空間で、いたずらっ子の笑みを交わす。 「Between the Sheets(ビトウィーン・ザ・シーツ). だね」  最初はカクテルの名前として覚えた、古い歌のタイトルを口にして、佐和は笑う。 「Oh baby making love between the sheets(シーツのあいだで愛を交わそう)」  歌詞の一節を口にして、佐和の額に口づけた。  シーツの繭の中で、互いの頬に手を這わせ、額をくっつけて、見つめ合い、笑いながら、少しずつキスを深めていく。  互いの後頭部を捉えて唇を押しつけ、舌先を触れ合わせてくすぐりあう。くすぐったさに笑いながら、もっと口を開け、深く舌を絡めた。佐和の舌は滑らかに動き、俺にその舌を与えながら、俺の舌を絡めとって、甘く噛まれる。  舌への愛撫を受けて官能を引き出されるほどに、佐和に優しくしたい気持ちが募っていった。  両手を擦り合わせて温めてから、佐和の身体に触れる。  首筋、鎖骨、肩の筋肉の丸み。佐和の存在を確かめるように、全身に手を這わせた。   「佐和がここにいるなんて、夢みたいだ」 「夢じゃないよ。ここにいる。僕はいつだって、周防の隣にいる」  佐和の手も、俺の身体を優しく撫でる。体温が近くて違和感なく馴染む手。  俺たちは抱き合って、再び唇を深く重ねた。  佐和の脚が俺の腰に絡み、俺は佐和の脚のあいだに膝を押し込む。  俺は佐和を仰向けに寝かせ、覆いかぶさって、全身を撫で回しながら、同時にキスの雨も振らせた。 「あとをつけてもいい?」 「ワイシャツで隠れる範囲にして」  俺は首筋は我慢して、鎖骨の終点と、心臓の上、腰骨、左右の腿の内側の皮膚を吸った。  佐和も俺の肩や腕、胸、内腿の皮膚を吸ってしるしをつけてくれる。 「佐和のものになった気がして嬉しい」  内出血を見下ろして喜んだら、さらに下腹部の皮膚も吸ってくれた。  そのまま逆さまになって、まだやわらかい互いの蕊を頬張り、頭を前後に動かす。  佐和の分身は大きく膨らみ、舌の上で脈打つ様子が感じられる。  俺の分身もぬるぬるとした温かな場所で育てられて、血液が集まっていくのを感じる。  本気になる前に口を離し、佐和を仰向けに寝かせて、その身体を守るように覆いかぶさった。  枕に黒髪を散らす佐和を見下ろし、見つめ返す佐和に頭を抱き寄せられて、キスをした。  キスをしながら、俺は佐和の胸を探り、小さな突起を指先に引っかける。佐和の身体が震え、連続して指先で弾くと甘い声が漏れた。 「んっ、周防、気持ちいい……ああっ!」  悦びを素直に表現されて、俺は嬉しくて貪欲になる。もっと感じさせたい、何度だってイかせたい。  反対側の胸の粒を口に含んで舐めまわしながら、指先でつまんでいる粒をくりくりとねじり、表面を指の腹で擦った。 「あっ、あっ、すおう……っ。ちくび、きもちいい……イキたくなっちゃう」  佐和は身体を跳ね上げ、俺が与え続ける刺激に圧されて、びくりと大きく身体を震わせた。 「あっ、あ……ああっ!」  快感を積み重ねる苦しさから解放されて、びくん、びくん、と背中を震わせているあいだに、俺は反対側の乳首を口に含み、唾液で濡れた乳首をこりこりとねじった。 「やっ、まだイッてる!」  そんなことは百も承知だ。快感で打ち上がった身体が着地する前に、さらなる快感で打ち上げてやる。 「や、やだっ! 苦し……っ」  全身をばたつかせ、髪を左右に振る。しかし刺激には素直に反応して、シーツの内側でいやらしく前後に腰を振っていた。  俺はぐっと太腿を押し込んで、佐和のやり場のなかった興奮に触れさせた。 「あっ、ダメ。擦りつけちゃう」  伸び上がって逃げようとする肩をしっかり掴んで押し下げ、密着させた。 「んっ、すおうっ、エッチになっちゃう」  訴えながら、腰は規則正しく律動して、俺の太腿には硬さが触れ続けた。 「愛してるよ、佐和。我慢しないで、自分を解き放って」  がたがたと揺れる佐和の耳に言い聞かせ、左右の乳首を甘く甘く責め立てる。佐和の身体は再び絶頂を迎えて硬直し、ゆっくりと弛緩した。 「佐和に包まれたい。いいか?」  頷く佐和の腰の下に枕を押し込み、膝を開く。  佐和は羞恥で顔を背け、露わになった頬に俺はキスをした。  指先で温めたローションを塗りこみ、ゆっくりと蕾をほぐす。  指先を少し埋めるだけでも、佐和の口からは悩ましげな声が漏れた。指を増やし、奥へ進めて、しこりを見つける。  ゆるゆると撫でると、佐和は切羽詰まったような声を上げる。 「そこ、だめっ。出ちゃう!」  震える屹立を口淫しながら、しこりを押した。 「あああああっ!」  強制的な射精に、佐和は悲鳴を上げた。熱い粘液を喉の奥に受け取って、俺はそのまま飲み下す。 「あ……もう……っ」  頬を赤らめ、瞳を潤ませて怒られても、怖くない。熱い頬にキスをしながら、俺は己に仕度を施し、ゆっくり佐和の中へ押し入った。 「痛くない?」 「ん、痛くない。満たされる」 「動いていい?」 「ん」  ゆっくりとストロークいっぱいに動かし、熱く絡みつく内壁を楽しんだ。佐和も目を眇めながら微笑んでいる。  見つめ合いながら腰を揺らし、気持ちが高まって抱きあった。  俺は佐和を抱いて起き上がる。対面座位でぐっと深く結合して、佐和は喘いだ。 「佐和、愛してる」  強く抱き締め、突き上げた。 「ああ、すおう……」 「もっと気持ちよくなろう。俺に掴まって。俺を味わって」  佐和の愛に包まれながら揺れるうちに、俺の首にしがみついている佐和の腰がうねり、切羽詰まって泣きそうな声が断続的に上がり始めた。 「佐和。どうしたの? お願いがあるなら言って」 「い……イキたい」 「いいよ、連れて行ってあげる」  俺を受け止めてくれる佐和を抱き締め、最奥を狙って突き上げる。先端が触れて痺れるような熱が全身に広がる。 「ああっ、佐和……気持ちいい……っ。うっ、ああ」  あまりの気持ちよさに、我慢できず呻き声が漏れる。 「んっ、すおうっ。あっ、ああっ、んん」  佐和も腰をくねらせ、泣き声に似た変な声を上げ続けた。  全身を熱い血と快感がめぐる。  もう疾走は止められず、言葉を交わす余裕もなく、ただ抱き合って、激しく高まった。  呼吸が苦しく、耳鳴りがする。強く振る腰が疲れてくる。でも、その先にある快感へ、佐和と一緒に行きたいんだ。 「あっ、イク。すおうっ!」  佐和が身体を震わせ、全身を硬直させる。ギュッと絞られて、俺も最奥を穿ちながら絶頂に達した。

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