135 / 172

【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(69)

『ん。周防、お疲れ様』  枕に佐和の髪が擦れる音が聞こえて、俺は少し甘い声を出した。 「佐和もお疲れ。もうベッドにいる?」 『うん、いるよ』  佐和の声も甘く、笑い声が俺の耳をくすぐる。 「もうエッチな声をしている」 『僕、エッチだもーん』  照れたような声に、俺は思わず小さく笑い、キスの音を聞かせてあやす。 「知ってるよ。エッチな佐和もめちゃくちゃ好き」  何度もキスの音を立てたら、佐和が甘く笑った。 『キスの音の出し方は、周防に教えてもらった』 「そうだっけ? いつ?」 『出会ってすぐの頃。周防が誰かと電話で話しているときに、ちゅって音を立てていて、それどうやるのって訊いて、教えてもらった。間近で唇の形を見せてくれて、周防とキスする女性は心臓が壊れそうで、大変だなって思ったのを覚えてる……僕、周防の唇って、とてもセクシーだと思う』 「俺の唇が? 佐和は、本当はずっと俺に惚れていたんじゃないのか」 『うん。最近、僕もそう思う。そういえば、僕はいつも、ひとりで美味しいものを食べたり、美しい景色を見たりするたびに、周防も一緒にいたらよかったのにって思ってた。これはきっと恋愛感情だよね』 「ありがとう。俺もいつも佐和とデートしていたい。いつでも佐和のことを思ってる」  キスの音をひとつ送ると、佐和が甘える声を出した。 『ねぇ、もっとキスして、周防』  俺は頷き、何度もキスの音を立てる。佐和のまだ濡れているであろう前髪や、凜々しい眉、薄い一重まぶた、切れ長な目もと、弾力のある頬、小さく尖った鼻の頭、輪郭のはっきりした薄い唇、くっきりとした顎。ひとつひとつ思い浮かべながらキスをした。 『ふふっ、周防のキスは音だけでも、くすぐったくて、気持ちいい。周防、愛してる』   佐和からもたくさんのキスの音が返ってきた。  顔中にキスをされているようで心地いい。目を閉じてキスの雨を甘受する。 「佐和。触ってあげられないから、自分で触れて。ゆっくり髪を掻き上げて、手のひらで耳にも触れて」  手がヘッドセットに触れたらしい。摩擦音が聞こえて、俺は佐和の耳に自分の気持ちを注ぎ込む。 「ああ……愛してる、佐和」 『僕も。僕も愛してる。大好き、周防』  こんな言葉を交わしながら愛しあえるなんて、俺たちは幸せだ。 「なぁ、佐和。そのまま指先で首筋を辿って、首筋の真ん中あたり、佐和の好きなところをそっとつまんで」  最近わかったのだが、佐和は首筋にも性感帯がある。キスマークをつけるのがいちばん気持ちいいらしいが、支障が出るので、いつもは甘噛みしたり、舌で強く押したりする。 『ん……あっ、周防……気持ちいい……ん、ん』 「気持ちいい? 帰ったら、キツく吸ってあげる」 『うん、して』  佐和の声はもうぼんやりと、熱っぽくなっている。愛おしい。 「指先で左右の鎖骨を撫でて、胸骨を辿っていくと、手のひらで佐和の好きなところに触れるよな? 撫で回して、硬くさせて」 『んっ!』 「ゆっくり円を描くように、手のひらで撫でて。乳首、勃起した?」 『ん……っ。こりこりになった』  恥ずかしそうな声をキスの音であやしたら、佐和は安心したように息を吐いた。 「上手だ。指先で触ろう。指の腹でそっと撫でて、我慢できなくなったら、指先で引っ掻いて」 『んっ、あっ、すおう……きもちいい……っ。んっ、んんっ』 「乳首の下側を引っ掻いてみて。佐和の気持ちいいところだ」 「っ、ん、んっ。んん。ああっ。やあっ、気持ちいい。すおう……っ』  俺が知っているいつもの反応で嬉しくなる。 「もう腰が動いてるだろう?」 『やっ、内緒……っ』 「内緒なの? 教えてよ。もどかしいところを、俺の枕にたくさん押しつけて。帰ったら、俺、その枕で寝るから」 『ダメっ、枕は、ちゃんと洗うもんっ』  洗うもん、って。可愛すぎか? 俺はますます佐和が愛おしくなって、つい息を吐いて笑ってしまう。 「そんなことを考える余裕があるうちは、イっちゃダメだぞ、佐和。もっともっと乳首をいじって。俺がいつもしているみたいに、親指と中指でつまんで、人差し指で擦って」 『はあっ……ん。すおう、きもちいい……いっぱいエッチになっちゃう』 「もっとエッチになって。たくさん触って、気持ちいいのをいっぱい身体に溜め込んで」 『イキそう……っ』 「まだ、ダメ。ゆっくり息を吐いて、我慢して」 『ん、やっ……あぁ……ん』  はあああっ、はあああっ、と甘く引きずるような呼吸が聞こえる。 「いい子だ。我慢すればするほど、イクときに気持ちいいからな」  俺は目を閉じ、佐和の嬌声と吐息、衣擦れの音を楽しんだ。身体の中を温かくて甘い性欲がめぐって心地いい。 『ん……っ、すおう。もうイキたい……イク……、イっちゃう……っ!』 「我慢できなくなった? いいよ、イク声を聞かせて」 『はぁん。すおう、だいすき……っ、だいすきっ! イク……っ! イク、イクっ、ああっ。ああっ!』  何度か佐和の呼吸が止まり、はあっと息を吐く音と、枕に頭を落とす音が聞こえる。少しのあいだ、余韻に浸る佐和に気持ちを添わせて待ち、声をかけた。隣にいれば、髪を撫でて、額にそっとキスをするのに。 「佐和、気持ちよくなれた?」 『ん……気持ちよかった』  甘えるような、照れたような声が聞こえて、俺は正直に言った。 「抱き締めたい」 『僕も。僕も周防にぎゅってしたい』 「早く会いたい。キスして、佐和」  ちゅ、ちゅ、とたくさんのキスの音が聞こえて、俺もたくさんキスを返した。  キスを返しながら、自分の身体へ手を這わせる。 「佐和、もういちど乳首を触って」 『ん……っ』 「もっとカリカリ引っ掻いて」 『あっ、や……っ』 「ねぇ、俺の枕を跨いで腰を振ってよ。乳首をいじりながら、枕を跨いで、腰を振って」 『恥ずかし……っ』 「誰も見てないよ。気にせず楽しんで」 『あっ、恥ずかしい。でも……きもちいい。すおう……すおう……あいしてる』  規則正しい衣擦れの音が聞こえて、そのエロさに俺は佐和の尻を揉んで左右に割り開き、蕾に息を吹きかけ、指を這わせる感触を思い描いた。 「佐和。お尻を突き出して。両手で揉んで」 『ん……すおうがするみたいに、する』 「いい子だ。外側に開くと、敏感なところに外の空気が触れて、気持ちいいだろ?」 『ん……たまに周防に、ふうってされるところ』 「そう。よく覚えていて偉いな」  俺はふうっと息を吹きかけてやり、佐和はそれだけで小さな声を上げた。 『はぁんっ』 「舐めていい?」  自分の指を舐めて音を立てると、佐和は甘い声を出す。 『ダメ……やだぁ。恥ずかしいから、しないで……ってばぁ!』 「恥ずかしいけど、感じるだろ?」  もういちど息を吹きかけ、舐める音を聴かせる。佐和の声が震えた。 『んっ、ん……っ。すおうの、いじわる』 「俺は、好きな子には意地悪したくなる」  佐和がちょっと笑った。 『嘘。周防はいつだって優しいよ』 「確かめてみるか? ローションはある? 指につけて。温まったら、気持ちのいいところに塗ってみ」 『んっ』 「そのままゆっくり撫でて、指の先を少し入れて」 『はっ、ああっ』 「指の先が少し入るだけでも、佐和のなかはひくひくうごめく。気持ちいい?」 『ん、きもちい……っ』 「それは、俺の指だ。俺の指はどこを狙うか、知ってるよな?」 『おなかの中』 「そう。場所は見つけた? 佐和はそこを突き上げるようにそっと押されるのが、いちばん好きだ。怖くないよ、やってごらん。ほら」 『ん……っ、うう……ん。すおう……っ』  佐和が自分の指で自分の身体を侵すなんて、想像するだけでも身体中の血がたぎる。彼は今、きっと恥ずかしさに顔を赤らめ、尻を高く上げながら、自分の枕に頬を押しつけている。紅色の蕾に指を突き立て、もどかしく動かし、腰を揺らめかせて、快楽を追っている。 「もっと責め立てて。俺の指は、もっと意地悪だぞ。全然足りない。もっともっといじめて」 『あっ、やあっ……でちゃう……っ』 「出していいよ。俺の枕に出して」 『はあっ、あんっ! すおうっ。はっ、ああっ、あああああっ!』  ひときわ高い声を上げて、佐和は極まった。はあっ、はあっ、と酸素を求めて短く強く呼吸を繰り返す。 「まだ終わりじゃないぞ、佐和。俺を受け入れて。もっと指を増やして、奥まで入れて。俺の太さってどのくらいだっけ? 覚えてるだろう?」 『ん……、待って。イったばっかり……だから』 「イったばかりのお腹のなかが、熱くて、締めつけてきて気持ちいいんだ。身体が冷めないうちに、もっと奥まで挿れて」 『あっ、太いの……入ってくるっ。すおうの、かたくて、おっきい……の……入ってくる』  俺は佐和の妄想に合わせて、自分の興奮に手をかけた。 「ああ、あったかくて、気持ちいい。もっと奥まで……奥まで挿れさせてくれ、佐和」 『あ……ん。届かないっ、奥まで届かないよ、すおう』 「焦らないで、佐和。一緒に楽しもう。ぎりぎりまで抜いて。ほら、抜け落ちそうだ。なんて言えばいい? 言えないとこのまま離れちゃうぞ、佐和」 『あっ、いなくならないで、すおう。奥まで……奥まで来て。僕とひとつになって。もっとくっついて』 「よく言えました。ご褒美に少しずつ入っていくから。ああ……気持ちいい。キツく扱かれて、気持ちいい……佐和」 『僕のなか、気持ちいい? ちゃんと気持ちいい?』 「ああ。めちゃくちゃ気持ちいい。身体が溶けていく。佐和の身体に染み込んでいくみたいだ。気持ちよすぎて、勝手に腰が動く」 『あ……っん。動いて。動いて、すおう。気持ちいい……すおうにごしごしされると、気持ちいいよ』 「セックスしたい。早く会って、佐和と本当のセックスをしたい。抱き締めて、腰を振って、佐和を泣かせたいよ。愛してる。ああ、佐和。愛してる」  硬く興奮した己を手で包み、佐和の忙しない息遣いに耳を立てる。 『あんっ、あんっ、あいしてる。ねぇ、もっと僕をエッチにして。欲しがりな僕の中を、すおうでいっぱいにして。もっと、もっと突いて! ああっ、らいすき。らいすき、すおう!』  佐和は呂律の回らない口でべたべた喋り、俺も興奮が高まって羞恥を忘れた。 「ああ、ああ、佐和が気持ちよくて、俺のことしか考えられなくなるまで、たくさん突き上げる……っ」  俺の興奮の先端からは、先走りがあふれ出て、グチュグチュと卑猥な水音を立てていた。 『すおうっ、僕、おかしくなっちゃう。も、イきそう……イきそう……っ』  佐和の声を聞きながら、自分の先端を指先で抉る。電流のような鋭い快感に腹筋が収縮して、勝手に声が出た。 「はあっ! おいで、佐和。俺も……俺もイきそうだ」 『来て……来て、すおう。一緒に……一緒にイこう。僕、もう……ああっ、イクっ! イクっ! すおうっ!』  俺も素早く手を動かし、ティッシュペーパーを掴んだ。 「ああ、イク。イク。佐和のなかに出す……っ! ああっ、佐和っ!」  奥歯を食いしばって射精の快感に耐える。2度、3度と放出の快感に身体を震わせ、背中を丸めた。  ヘッドセットからも、自分の身体からも、激しい呼吸音が聞こえた。  何度も喘いで、ようやくまともに息が吸えるようになった頃、意識も清明になった。  冷める身体と入れ違いに、どうしようもなく優しい気持ちが湧き上がってくる。抱き締めてキスをしたいのに、ここに佐和がいないことが、本当に寂しい。 『周防、気持ちよくなれた?』  優しい声が聞こえて、俺は自分の手のひらを拭いながら頷いた。 「ああ。気持ちよかった。いっぱい出た」  さらに追加でティッシュペーパーを抜き取る音が部屋に響く。 『ゆっくりして』 「佐和は? 満足できたのか?」 『うん。おつきあいしてくれて、ありがとう。思ってたより、ずっとずっとエッチだった。わかんなくなって、何か変なこと言っちゃったかも』 「何も。佐和の口からこぼれる声や言葉は、どれも全部セクシーで、甘くて、最高だった」  枕へ頭を落とし、佐和の代わりにクッションを抱いた。 『周防も最高だった。興奮が伝わってきて、嬉しかった。すおう……だいすき……』  眠気を帯びた声に変化して、俺はキスの音を立てる。 「おやすみ、佐和。よい夢を」 『ん。おやすみなさい。ねぇ、通話は切らないで、このままにして』 「いいよ。朝までこのまま。おやすみ」  眠りの世界へ沈んでいく佐和の寝息を心地よく聞きながら、俺も枕に吸い込まれるように眠りについた。

ともだちにシェアしよう!