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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(72)

 佐和の腰を抱き、ゆっくり侵入する。佐和も迎えるように尻を突き出してきて、俺たちは深く交わった。  佐和はドアにすがりついたまま、顎を上げ、目を閉じて、口許に笑みを浮かべた。  俺も根元まで受け入れられて満足を感じた。  水底から上昇した炭酸が、水面で空気に触れて甘くくすぐったく溶けるように、自分の身体が佐和との接地面で溶けていくような快感を感じる。  身体を揺らすたびにその快感は強まって、俺はさらなる快感を求めて疾走した。  すがるドアがカタカタと小さく音を立て、部屋の中には激しい息遣いと、肉のぶつかる音が響く。  ドアに向かって声を我慢している佐和は、俺に知らせないまま、身体を震わせて恍惚とした。  その姿は天啓を受けた人のように美しく、快楽に素直でのびやかで、コイツ、めちゃくちゃ幸せそうにセックスするなぁと愛おしくなる。腰を振りながら抱き締め、その背中に額を擦りつけた。 「愛してる、佐和」  耳に囁く。絶頂を迎えてもなお最奥を突き上げられて、重積する快楽の中にいる佐和は、言葉は紡げなくなっていたが、それでも歪む顔に笑みを浮かべて頷いてくれた。  俺の先端が内壁に触れると、足の裏から脳天まで炎が駆け巡るような快感がある。一度知ってしまえば、二度も三度も欲しくなる刺激だ。俺は佐和の肩を掴んで身体を引き寄せ、腰を突き出して先端を押しつけたまま腰を揺らした。  また佐和の身体が跳ねる。  強く絡め取られて、俺も身体を跳ね上げた。 「ああっ、佐和っ!」  快感に我を忘れる。本能のままに押し込み、佐和の最奥へ気持ちを放った。  射精は何度も大量に続き、そのたびに呼吸が止まって、全身が灼熱のような快感に包まれた。  身体を跳ね上げ、つま先立ちで快感を味わい、ようやく身体を解いた。  何日も貯め込んでいた気持ちの放流を許された身体は、一度や二度のセックスでは治まらなかった。ヘンゼルとグレーテルのように点々と衣類を脱がせあい、足を止めるたびに抱き合ってキスをして、結合して腰を振って、ようやくたどり着いたベッドの上で転げ回った。  途中で自分たちの欲深さを悟り、佐和は俺の杭の上に座ったままフロントへ連絡してデイユースから宿泊に切りかえて、さらに相手の身体の中へ深く潜った。  日が傾いてもまだ身体は、相手を求め続け、疼く場所を差し出しあって求めあい、摩擦しあった。  夕食を求めてレストランへ行く余裕もなく、ルームサービスをとる。  ベッドの半面にテーブルクロスと皿を広げ、セックスしながら食べた。  アミューズブーシュの薄く硬く焼いたパンを互いの口へ食べさせあい、赤い露が滴るビーツのサラダを腹に散らしてむさぼり、向かいあって抱きあう互いの肩に、肉や魚の片々(へんぺん)をのせて齧った。  フロマージュを指で切り取って相手の口の中へ入れ、頬の粘膜になすりつける。そのまま咥えた指をペニスに見立てて、口淫する姿を見せあって笑う。  喘いで乾く喉に、口に含んだワインを飲ませあい、こぼれて肌に伝う雫を舌先で追った。  食べ終えた皿を廊下へ出し、べたべたになった身体をシャワーで洗い流しながら、互いの身体を愛撫して、バスタブの湯を波立たせながらまた腰を振った。  バスローブを着てベッドに倒れ込み、顔を見あわせて息をついて、どちらからともなく笑う。  佐和の首の下へ腕を差し込むと、佐和は俺の腋窩へ鼻先を突っ込んで、深呼吸してからもごもご言った。 「ねぇ、周防。僕たちは、出会ってすぐにセックスしなくてよかったね」 「どうして?」 「こんなに楽しくて気持ちいいって知っちゃってたら、寝る時間以外はずっとセックスばかりして、大学に行かなかったし、仕事もしなかったよ。織姫と彦星よりもタチが悪い」 「天の川に遮られるところだったな」 「周防の身体を知ったあとで、1年のうち364日はテレセで我慢なんて無理」  佐和はまた俺の匂いを大きく吸い込んだ。俺もテレセでは伝わらない、シャンプーの向こうの佐和の髪の匂いを存分に嗅ぐ。  髪に顔を埋めたまま、しつこく深呼吸したら、佐和がくすぐったがって頭を左右に振った。  そのとき、首筋のラインがぐっと際立って、光って見えた。指先で辿り、佐和が身体を震わせる一点をそっと押す。 「跡をつけてもいい?」 「ん」  差し出された首筋を唇で覆って吸い上げた。 「周防、気持ちいい」  うっとりと呟く姿に、ますます激しく皮膚を吸い、さらには歯も立てて噛んだ。  上下の前歯のあいだで首筋が動き、皮膚の下で逃げるのを追って、さらに深く噛む。 「あ……っ、ん。すおう」  口の中の皮膚へ舌先を這わせると、佐和はまたひくひくと身体を震わせる。  バスローブの合わせ目から手を忍ばせて、ふっくらと緩んだ乳暈を撫でまわす。すぐに硬く引き締まって、ぷつんと粒が立つ。  指の腹でゆっくり撫で回したら、佐和が仰け反って、乳首を俺の指に押しつけながら声を上げた。 「ん……っ。あっ、イヤ……じゃないけどっ!」  佐和は頭を左右に振った。その必死さが可愛らしくて、頬に指をすべらせる。 「たまに言うよな、イヤじゃないって。イヤじゃないけど、よくない?」 「よすぎて苦しい。気持ちよすぎて怖くて、ついイヤって言っちゃう。でも、男にしてみたら『イヤ』って言われたら、go か no go かわからないじゃん。正直にならなきゃって思って、がんばってる」 「がんばってるのか。『イヤ』って言っても進めていいなら、俺は遠慮なく続行する。本当にイヤなときはどうする?」 「Cut it out.」  俺は笑顔で頷き、佐和のこめかみにキスしながら、胸の粒を探った。 「ん……っ」  佐和はふわりと眉を寄せ、その官能的な表情に心臓を射抜かれて、思わずガキのようにからかってしまう。 「佐和、真顔になってる」  佐和は笑い、両手で顔を覆った。 「僕、すぐにエロくなっちゃう」  赤く染まった耳に唇を近づけた。 「もう一発、つきあってくれるって?」 「絶倫男。ゴムたりるかな。別になくても、いくらでもやりようはあるけど」 「口とか、手とか? 素股とか?」 「素股? できる? 僕、どっちの立場でも、一回もしたことない」 「ゴムが尽きたら、試してみる? 俺がもう一箱持ってるから、試せるのは明け方頃かな?」 「絶倫男め。ゴムが尽きる前に周防がバテてくれることを祈るよ」  佐和は苦笑したが、俺に向かって両手を広げてくれて、俺はまた佐和の身体へ溺れていった。  すぐに馴染む体温と、言葉を考えることをやめ、自由に伸びやかな反応を見せる佐和の姿を楽しみながら、空が白むまで遊んだ。

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