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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(79)

 身体を洗い、バスタブのふちを跨いで湯の中に入ってきた佐和を、膝のあいだに座らせる。佐和はいつもと同じように、背中を俺の胸に寄りかかったが、その肩には少し力が入っていた。 「緊張してる? さて、過去の恋人の存在を匂わせた佐和くんには、俺の嫉妬心を煽った(とが)につき、お仕置きを受けてもらおう」 「はい。ごめんなさい」  殊勝な姿を見せられて、それだけで俺は佐和を抱きあげなくてはと思う。  身体ごと振り向かせ、脇腹に両手を差し込んで、俺の腰を跨がせた。表情を曇らせている左右の頬に、何度も音を立てたキスをする。 「待って、佐和。俺は怒ってない。佐和と燃え上がりたいだけ。『周防、お仕置きして』って誘って」  上目遣いで甘える俺に、佐和は小さく笑った。 「周防は人が好すぎる。結婚前に、締めておくべきところは、きっちり締めておいたほうがいいらしいよ」 「佐和が俺のことを締めてくれるんだろう?」  佐和は俺の頬を両手で挟み、額をごっつんこして言った。 「周防、ちゃんと僕にお仕置きをして」  俺は子どものように笑顔で大きく頷いて、佐和の唇へ自分の唇を押しつけた。ふわふわと唇を味わって、舌を差し込み、佐和の舌を誘い出してしゃぶる。 「ん……む」  佐和の甘い声を聞きながら、両手で佐和の脇腹を撫で上げ、左右の親指の腹で胸の粒をそっと捏ねる。 「あ……んっ」  身体を震わせ、佐和は口を離して喘いだ。 「佐和、気持ちいい?」 「ん。気持ちいい」  俺の髪に両手をうずめ、佐和は身体を震わせる。  小さく尖り始めた粒を人差し指でなぶり、親指と中指でつまんでねじりながら、人差し指の腹で先端を擦る。佐和の身体は跳ねて、バスルームに嬌声が響いた。 「んっ、んっ、ああ……っ。周防、気持ちいい……っ」  口に含んで舌先で転がすと、さらに佐和の身体は震え、腰も揺れて、俺の腹に佐和の興奮が擦りつけられる。  俺は佐和の乳首に交互に吸いついて、硬く尖らせた舌先でなぶったり、やわらかく広げた舌で覆ったりして舐め、反対側は指でつまんでゆすり、ねじり、押しつぶす。 「んんっ! はあんっ。すおう……すおう」  俺の舌や指の動きに合わせて、佐和は震え、声を上げた。 「あ、イキそう……イキそっ」  佐和が呼吸を止め、顎を上げたタイミングで、俺は佐和の胸から手と口を離した。 「……えっ?」  佐和は目を丸くして、大きく肩で息をしながら俺を見下ろした。 「お仕置きだからな。簡単にイかせてもらえると思うなよ?」  片頬を上げて睨め上げる俺の目を見て、佐和は大きく息を吸い、目を閉じて天井に向かって息を吐いた。 「寸止め……マジか……っ」 「イかせてもらえないからって、オナニーするのは禁止」  佐和は俺の肩を両手で掴み、悩ましげな表情で喘ぎながら頷いた。  少しずつ佐和の呼吸が落ち着いてきたのを見て、俺は再び佐和の胸へ手を這わせる。 「あんっ、周防……っ」  高まればまた苦しむとわかっていても、佐和の声は喜びで甘くなる。  舌に触れる乳首はすぐに硬くなり、俺の舌も心地いい。佐和の身体を抱き、目を閉じて舌先に触れる小さな粒の感触を楽しんだ。   「すおう……すおう、きもちいいっ」  俺は口からあふれる唾液を、わざと大きな音を立ててすすりながら、佐和の小さな乳首をむさぼった。 「はあ……ん。すおう」  膝立ちを続ける力が抜け、湯の中に崩れる身体を抱き留めて、脚のあいだに座らせた。自分の胸に寄り掛からせ、佐和の肩に顎をのせてのぞき込みながら愛撫を続ける。  乳首を取り巻く乳暈だけをつままれるのも、佐和は好きだ。 「んっ」  柔らかく揉み込むと、佐和は顎を上げ、後頭部を俺の肩に預けて、悩ましげに眉根を寄せる。  俺は乳暈ごと乳首までつまんだ。同時に佐和の頬や首筋に唇を押しつけてあやし、快感に耐えさせて、高みへ押し上げる。  ゆっくり指を動かしているあいだは、佐和はただ気持ちのいい波を漂うだけだが、指を動かす速度を上げて、快感の波が消える前に立て続けに刺激を与え続けると、佐和は苦悶の表情を浮かべ、口を開いて空気を求める。  声を上げ、身体を震わせて快感を楽しみ、さらに高まると息を止める。顎を上げて伸び上がってきたタイミングで、俺は手を離し、刺激を止めた。 「ん……っ! はあっ、はあっ。ああっ! あと少しだったのに……っ」  佐和は焦れて、悔しそうに叫ぶ。 「イク、イキそうって言わなければ、俺にバレないでイケると思った? 残念でした」  快感を持て余して身体を震わせている佐和の耳に囁き、ちゅっと音を立ててキスをした。 「佐和、どう? 寸止めはキツい?」 「めちゃくちゃキツいよ。気が狂いそう」  それでも泣き言を言わないのは、佐和らしい。もっと素直に助けを求められる性格だったなら、それこそ余計な時間を使わなくて済んだだろう。しかし、この強気な性格が、俺のバランサーとして向こうを張って、ときには勢い余って暴れそうになる会社をコントロールしてきた。 「佐和。俺たちには無駄な時間なんて、1秒もない。今すぐ納得できなくてもいい。何度でも俺は同じ事を言い続けるから。死ぬまで全部の時間をかけて愛してる」  愛撫に蕩けて無防備な状態の佐和の耳へ話して聞かせ、その言葉が浸透するまで唇で蓋をした。 「あと1回苦しんだら、許してあげる」  俺は佐和の身体へ手を這わせた。  焦らされて、腹の底に熾火(おきび)のように性欲がくすぶっている身体は、僅かな刺激で燃え上がる。  佐和の身体はイキたがって、どんな小さな刺激でも足がかりにしようとするから、軽く乳首をつまんだだけで、鼻にかかった声を出した。  「ああ、すおう……すおう……、きもち……い。もっと。もっとして」  達するためなら何でもすると言わんばかりに俺にすがり、かくかくと腰を振って、俺の腹に切ない興奮を擦りつけ始めた。 「こら、オナニーはダメだって言っただろう。お仕置きを増やすぞ?」 「あっ、ヤダ。ごめんなさい……っ」  佐和は謝りながらも、快感に耐えきれず、腰をくねらせ続けている。俺は脚のあいだに佐和を座らせ、自分の膝に佐和の膝を掛けさせて、強制的に脚を左右に開かせた。 「あっ、やっ!」 「お湯が透明だから、よく見える」 「み、見えないよ。そんなには」 「そう? 腰が揺れて、お湯を相手にファックしてるのが見えてるけど」 「お湯としたい訳じゃないよ! 僕は周防とファックしたいのっ!」  駄々っ子のように佐和は叫び、身体を揺すった。佐和がファックなんて下品な言葉を口にする姿は初めて見た。またひとつ悪影響を与えたことに満足して、俺は乳首責めを再開する。  中指の先で乳暈だけをくるくると撫でまわすうちに、佐和がイヤイヤと首を左右に振り始めた。1回だけぴんっと乳首をはじく。 「ああっ!!!」  佐和の身体は大きく跳ねて、また俺の指が乳暈だけを撫で始めると、小刻みに腰を振りながら、泣きそうな声を出す。 「やだ……やだ……もっと、もっといっぱいして、すおう」 「『乳首にお仕置きして』っておねだりして」 「ん……お仕置きして。僕の乳首にお仕置きして」 「お望み通りに」  左右同時に乳首を引っ掻いて責め立てて、佐和は嬌声を上げながら黒髪を振った。身体はびくびくと震え、佐和の手は俺の手に添えられて、もどかしげに腰が揺れていた。 「ああっ、イキたい……イキたいよ……すおう。イキたい……っ、あっ、イク……」  佐和が全身を強ばらせ、俺は慌てて手を離した。 「危ない。イかせるところだった」 「はあんっ! ヤダ、もうイキたいっ!」  湯面が波打つほど、佐和は身体を揺すって焦れた。  俺は暴れる佐和の身体をしっかりと抱きしめる。佐和も俺にしがみついた。 「俺が嫉妬に身を焦がしたのと同じくらい、佐和ももどかしさに身を焦がしただろうから、お仕置きはこれでおしまい。ベッドで仲直りしよう」  性欲と風呂の両方にのぼせ、真っ赤になっている頬に音を立てたキスをした。

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