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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(80)
辿り着いたベッドに佐和を寝かせ、爪先から内腿、腹、脇腹へキスをして、ときどき赤い跡を残す。
「んっ。周防……気持ちいい」
佐和の声は水飴のように透き通って甘く、俺の耳に絡みつく。
起き上がった佐和に両手で頬を挟まれて、唇が重ねられた。やわらかな舌を与えられ、味わっているあいだに身体の上下を入れ換えられて、ゆっくり押し倒される。顔の左右に佐和が手をつき、視界いっぱいに佐和の顔と黒髪が広がった。
「さっきは意地悪なお仕置きをしてくれてありがとう」
にっこり笑顔を見せられて、俺は生唾を飲む。
佐和の唇が俺の耳に触れ、悩ましげな吐息と同時に濡れた舌先で形を辿られていった。耳の奥まで舌先で探られて、俺の眉間には自然と力がこもる。
「っん……佐和」
「耳、弱いよね。感じて歪んでいる顔もセクシーで素敵だよ、周防」
耳に唇をつけたまま笑い声と吐息を流し込まれて腰が浮いた。
顔中にキスを落とされて、柔らかな唇の感触と温もりが心地いい。首筋や鎖骨は舌も這わされて、ぬめる感触に背筋が震えた。さらには佐和の興奮した息遣いや、熱を持つ皮膚の感触を全身に感じて、下腹部が熱くなる。
「佐和。ああ……」
黒髪に指を這わせると、その手を掴んでキスされた。
「ねぇ、周防。僕、欲しくなっちゃった」
充血している俺自身に、佐和がキスを落とす。
「うっ」
「美味しそう。食べていいよね?」
佐和は唇をくるりと舐め、大きく口を開けて、ぱくりと俺の興奮を食べる。
「うわっ」
温かくて柔らかくて気持ちがいい。佐和の唾液でぬるぬるして、引き攣れるような不快感がなく、扱かれる気持ちよさだけがあった。
「佐和……っ」
見下ろすと、俺の張り詰めたものを頬張って、口を窄めている佐和と目が合った。頬は興奮で赤く、酸素を求めて鼻呼吸を繰り返していて、唇は唾液と俺の先走りでぬらぬら濡れて光っている。
「ひもひいい?」
「ああ、めちゃくちゃ気持ちいい」
手を佐和の頬へ導かれた。頬越しに俺の形を確かめさせられて、愛されている実感と頬の内側の粘膜に擦れる快感を得る。
笠のふちをくるくる舐められながら、根元を手の筒で素早く扱かれて、俺は快感の内圧が高まってくるのを感じる。
「佐和……出そうだ……っ」
相手の口内に放つのはお互い様で、佐和はきっと今夜も許してくれる。
俺の言葉に、佐和は刺激を強めてくれて、もうすぐというときに、突然刺激が止み、興奮は外気に晒された。
「ああっ? ……えっ?」
佐和はいたずらっ子の笑みを浮かべていて、俺は大きく呼吸を繰り返しながら、寸止めを食らったことを理解した。
「やりやがったな?」
「僕もやってみたかったんだもん。周防ってば、ほっぺが真っ赤」
佐和はニッコリ笑いながら、コンドームのパッケージに手を伸ばし、端を切って、薄膜を取り出す。顔に近づけて表と裏を確認し、中心をつまんで空気を抜きながら、俺の先端にあてがう。あとは口で根元まで、両手で茂みを掻き分けながら、丁寧に覆ってくれた。
「僕の中に来て」
佐和は後ろ手でくちゅくちゅとローションのついた指を動かし、薄膜をまとった俺の屹立にもローションを塗りつける。
「一緒に気持ちいいこと、しよ? いいよね?」
俺が頷くと、佐和は俺の腰を跨いだ。後ろ手に俺の屹立を支えながら、ゆっくり腰を落として、俺を飲み込んでゆく。
口内とは違う熱さと締めつけに、暴発しないよう息を詰めて見守った。
「ん……拡がるっ。周防の形に拡がってく」
顎を上げながら腰を沈め、俺の手を導いて、下腹部を手のひらで押さえさせた。
「周防の形になってるの、わかる? 僕の身体は、周防仕様にカスタマイズされちゃってるよ……周防とのセックスが気持ちよすぎて……エッチな身体になって……いつも周防と愛しあいたい、セックスしたいって、疼いてる」
佐和はゆるゆると腰を動かしはじめ、俺はその姿を見上げながら、胸の尖りに手を這わせた。
「あっ、ダメ。イキたくなっちゃう」
腰を振る速度が早く、深くなって、顎が上がり、無防備に喉を晒す。
「いいよ、1回イッて」
俺は起き上がって、佐和の左の乳首に舌を押しつける。右より左のほうが感じやすい佐和は、びくんっと身体を震わせて、強い快感から逃げようとする。
佐和の身体をしっかり抱いて引き戻し、俺の屹立の上に深く座らせて突き上げる。
「あっ、もう……イクっ、イっちゃう。すおうっ!」
「おいで、佐和」
絶頂を迎える佐和を腕の中に匿う。佐和は苦しげに顔を歪めて身体を震わせたあと、あどけなく表情を緩め、追いかけてくる快感にびくん、びくんと身体を跳ね上げてた。
うっとり目を閉じて脱力しはじめる佐和を抱いて、俺はゆるゆると腰を使う。
「あっ、まだ……っ」
焦ったような声を無視して、柔らかく熱くうごめく内壁を突き上げた。
「ああっ、すおう……まって……っ。ん、ん」
「気持ちいい?」
「きもち……いい……っ。こわい」
「大丈夫、俺がしっかり抱いていていてあげる。怖がらずに楽しんで」
規則正しく突き上げるうちに、佐和もリズムを合わせて腰を揺らめかせるようになる。
干渉する波は快感を強めあい、その強さに耐えるためにキスを交わし、酸素を求めて喘いで、また口を開けて合わせるのを繰り返す。
表面張力いっぱいまで快感が蓄積されて、佐和は俺にしがみついた。
「イクっ! すおうっ」
「俺も。愛してる」
限界突破を求めて佐和を突き上げ、佐和が先にはじけた。
絶頂を味わっている身体の中で俺もはじけて、強く穿って達している佐和をさらに感じさせて、ようやく狂瀾の時間は終わった。
汗に濡れた前髪を掻き上げ、冷たい水を分けあって飲み、息を吐いてベッドの中へもぐりこむ。
佐和の首の下へ左手を差し込めば、佐和はころんと寝返りを打って俺の肩に頭をのせる。湿っている黒髪にキスをした。
「満足できた?」
「とっても。周防は?」
「大満足」
伸び上がって唇を差し出してくる佐和の求めに応えて、音を立てるキスをして、俺たちは至近距離で見つめあい、少し照れくさく微笑みあった。
俺は少し頭を上げ、佐和の鎖骨の上にキスマークをひとつ増やしてから、枕に頭を落として目を閉じた。
「おやすみ。また明日」
佐和はくすくす笑って俺の首筋を指先で辿り、鎖骨を辿って、俺が佐和にキスマークをつけたのと同じ場所に吸いつく。ちりっと痛みを感じるまで吸われてから、音を立てたキスをされた。
「おやすみなさい、また明日」
翌朝、俺は記憶していたより多い数のキスマークに、鏡をのぞき込む。
「こんなにいくつもあったか?」
ワイシャツの衿に隠れるぎりぎりの首筋や、肩や胸や脇腹に、たくさんの赤い跡がある。
「ごめん。周防が寝てるあいだに、ちょっと数を増やしちゃった」
整髪料をつけた手でサイドの髪のボリュームを抑え、前髪の立ち上がりを調整しながら、佐和が鏡越しに俺を見て笑う。
「ふうん。寝ているあいだにも独占欲を見せられて愛されるなんて、気分がいい。で、佐和はどこに新しいキスマークが欲しいって?」
「んー、腰!」
俺は佐和の背後にうやうやしく膝をつき、ワイシャツをまくり上げて、腰のふたつのえくぼのあいだの皮膚をキツく吸った。
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