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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(93)

 佐和はローションのついた手で、俺の脇腹をなであげ、肩から首筋、首の後ろをなでて、背筋を滑り降りる。  俺の身体から快感を引き出そうとする手の動きを、しっかり味わいたくて目を閉じた。 「ねえ、周防。もっとリラックスして楽しもう」  うながされて佐和の隣に仰向けに寝る。  全身の力を抜いて目を閉じると、佐和の愛撫を一層楽しむことができた。  身体に触れるか触れないかという絶妙な距離感で、手のひらの温もりとローションだけで愛撫される。  焦れて佐和の手に自分の肌を押しつけたくなるのに、佐和の手は逃げてしまう。 「ああ、佐和……っ」  乳首すら円を描く手のひらが遠く、静電気のような弱くくすぐったい快感しか与えてもらえなくて、俺は胸を突き出してねだった。 「もっと。もっと触ってくれ」  くすくすと笑う声がするだけで、俺への刺激は弱いままだ。  「頼む、佐和」 「身体が切なくなってきちゃった? 腰が動いてて、めちゃくちゃエッチだよ」  俺は下腹部に蓄積される興奮と熱をあやすために、小さく腰を振っていた。 「もどかしい。擦りつけたい」  正直な言葉にくすくす笑いながら、佐和は俺の腹をなで、腰骨から太腿へ手を滑らせる。もっとも刺激してほしいところは迂回されて、俺は呻いた。 「うわ……ソコは避けるのか」 「当然だろ。一番気持ちのいいところは、最後のお楽しみ」  指先を浮かせ、温かいローションだけで肌をなでられて、甘いむず痒さにますます下腹部へ血液が集まっていく。  俺の表情を観察しながら、足の指の一本一本、足の裏までなでられて、その丁寧で、相手を喜ばせようと尽くす愛撫に、余計なことを考えた。 (佐和の過去の恋人たちは、皆、こんなセックスを味わっていたのか)  自分の過去は棚上げにして、カッと嫉妬の炎が胸を焼く。俺、やっぱりマリッジブルーなのかな。  足元から胸元までするすると、全身を使って愛撫しながら上ってきた佐和を、自分の身体の下に組み敷いた。 「なあ、佐和。ローションガーゼって知ってるか?」  俺はガーゼを取り出し、ローションをたっぷり染み込ませた。  ううん、知らないと答える佐和の雄蕊をローションまみれの手のひらで包み、硬さを確かなものにする。 「気持ちいいらしいから、試してみよう」  俺は佐和に向かって笑いかけ、露出したところへガーゼをあてた。  つやつやと赤く光る先端を包むようにして、俺はガーゼの長辺の両端を握り、磨くようにゆっくりと左右へ動かす。 「ひゃあっ! うわあああっ!」  いきなり佐和が腰をはね上げ、悲鳴をあげた。その効果の絶大さに、俺は無意識に唇を舐める。  コツは磨く手を止めず、しゅるしゅるとくすぐったい刺激を絶え間なく与え続けること。 「やめて。やめて、周防っ! ひいっ! ああっ! おちんちんがっ、おちんちんの先っぽが摩擦で燃えちゃう!」  佐和はあられもない声を上げ、両手両足をばたつかせ、髪を左右に振って暴れる。それでも俺を蹴り飛ばしたり、突き飛ばしたりしないんだから、相当気持ちいいんだろう。 「やあっ! 休ませて!」 「ダメ」 「先っぽだけは、やあっ! やだあっ! おちんちんっ、おちんちん握って。いきたいっ、いきたいよ」  摩擦と圧迫が揃わなければ、男のペニスは遂げることができない。佐和は、あまりの辛さに自分のペニスへ手を伸ばす。俺はその手を強く払った。 「ダメ。俺しか知らない佐和の姿を見るまで、許さない。両手は頭の後ろで組んで」  佐和は涙をこぼしながら俺の言うことを聞き、自分の頭を重石に両手を拘束する。 「いい子だ。もっと気持ちよくしてやる」  ガーゼを押しつける力を少しだけ強め、動かす速度を早める。  佐和は両膝を擦り合わせたり、腰を前後にはしたなく振ったり、どうにかして遂げようと見悶えた。全身は赤く上気して、喉からは追い詰められた悲鳴が漏れ続けている。 「あ……っ、い、いく。出ちゃう!」  俺が刺激をコントロールするより先に、ガーゼの布目から白濁がぷりぷりと盛り上がってくる。 「扱いてもいないのに、こんなに濃いのを出して、恥ずかしいヤツ」  軽く言葉で責め、ガーゼを動かす手は一切緩めず、刺激を続けた。 「や、やめて。もういったから。いったからやめて……」  声を震わせる佐和に、俺は笑いかける。 「ここからがお楽しみだ。苦しんで、もっと自分をさらけ出せ」 「いやあっ! ああ、周防っ」  絶叫し、ぼろぼろ泣きながら、佐和は快感を味わい続ける。 「だめ。ああっ、ほんとに。来ちゃう。何か変なの……変なの」 「いいよ。身を任せて」 「あああああっ!」  さらさらとした液体が噴水のように飛び出してきた。二回、三回と噴き上げて、佐和はまた泣き声を上げる。 「潮を吹くなんて、よっぽど気持ちいいんだな。もっと続けてやる」 「やだっ、もうやだっ! 死んじゃう。死ぬ」  泣き濡れた顔に自虐心を煽られて、俺は止めることなく刺激を続けた。さらに佐和は二回潮を吹き、本気で足をばたつかせ、泣き始めたので、俺は満足して手を止めた。  佐和の身体にシャワーをあて、全身からローションを洗い流して、温かな湯を満たしたバスタブの中に座らせた。 「気持ちよかった?」  背後から抱き締め、肩に顎を乗せて訊くと、佐和は頷いた。目尻も鼻の頭も赤くて、まだときどきすんすんと、はなをすする。 「周防のバカ。気持ちよすぎて怖くて、人格が崩壊するかと思った」 「セックスしか考えられない廃人になった佐和を、鎖に繋いで、地下室に閉じ込めて飼うのもいいかも知れない。そういう世界観、好きだろ?」  佐和は世紀末の爛熟した空気、耽美や退廃や混沌をあらわした、ボードレールやランボーの詩を、しかも堀口大學の訳で読む。 「読むだけで、自分はそんな世界に身を置きたくないよ」  べえっと出された舌を舐めてキスをした。 「泣きながらおもらしをする佐和も、めちゃくちゃよかった。またしよう」 「お断りする。快感は強いけど、屈辱的すぎて僕には合わない」  それは照れなどではなく、本気で言っているようだったので、俺はきちんと頷いた。 「なるほど。で、強い快感を与えた俺に、ご褒美の騎乗位をしてくれるって?」 「鏡の前で後ろから、たくさん腰を振ってご奉仕してくれたら、許しのキスをしてあげる」 「腰が爆発するまでがんばります!」  素早くキスをかわし、競うように風呂を出て、鏡がはりめぐらされたベッドに飛び込んだ。 

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