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【番外編】恋とは、まことに付き合いにくい感情であった。(94)
王妃が眠るようなベッドは、大きな鏡に側面を押しつけるようにして置かれている。
佐和はベッドの上に座り、鏡に向かっていて、俺は佐和を背後から抱き締め、頬をくっつけて鏡を見た。
「俺たち、お似合いだよな」
「そうだね。周防は僕のパートナーたるにふさわしい」
鏡に向かって顎を上げ、すぐに佐和は笑い出す。
「全裸で何を言っても、全然カッコよくないね」
そう言って笑う頬にもう一度口づけ、鼻先で黒髪をかき分けながら、鏡の中の佐和に向かってウィンクをした。
「一糸まとわぬ姿で愛しあう二人とは、なんと平和で仲睦まじく、美しいことか」
「なるほど、これがかの有名なベッドイン! イマジン! ラブアンドピース!」
佐和はさらに笑って仰向けになり、俺の首に両腕を絡めてくる。
俺は佐和に覆いかぶさり、首や肩に唇を這わせた。
滑らかな肌、薄く引き締まった筋肉、手足の長い優雅な肢体。佐和の身体を鑑賞しながら、丁寧に唇を押しつけて、小さな乳首を口に含んで舌先で転がす。佐和は甘い声を上げて、俺の髪をかきまぜた。
「ん、周防。気持ちいい……っ」
ふと佐和の腕の下から鏡を見て、ほんの数十センチ先に映る自分たちを見る。
佐和の胸の色づきを唇で覆い、舌先をちろちろと動かす自分と目が合った。
佐和は俺の頭を抱いて目を閉じ、悩ましげに眉根を寄せて、口を開けて喘いでいて、敏感な身体の震えは直接俺の肌に伝わってくる。
すげえ、臨場感。
俺は思わず息を呑んだ。
鏡を見ながら楽しんだことは何度もあるが、こんな大きな鏡は初めてだ。実際の佐和の姿と、鏡の中の自分たちの姿の両方から刺激されて、自分の下腹部にぐっと力がこもるのを感じる。
息を詰めたのを見抜いた佐和が笑った。
「周防は鏡を見ながらするのが好きだよね」
「佐和は、鏡を見ながらするのは好き?」
「恥ずかしくて苦手。でも、興奮した周防を見れるから、好き」
佐和は頬を赤らめて、催促するように俺の頭を抱いた。
再び佐和の胸の色づきを唇で覆う。尖らせた舌先を乳首に突き立てて押し込み、続けて音を立てて吸い上げて、口の中で転がした。
「あっ、すおう……いく……っ」
俺は乳首をしゃぶりながら、また鏡を見た。絶頂を迎え、全身をびくびくと震わせる佐和の姿が、頭のてっぺんからつま先まで全部見えた。
腰を浮かせ、顎を上げて、きつく眉根を寄せて、快感に耐えている。金魚のように口を開け、左右の膝は擦り合わされて、つま先は力がこもって丸まっていた。
俺、本当に佐和とセックスしてる。
今さら何をと思うが、絡み合うふたりの全身が映っている鏡を見て、改めて今の幸せな状況を噛み締めた。
「ああ、佐和。大好きだ!」
佐和をうつ伏せに寝かせ、首の後ろにキスをして、そのまま唇で背骨を辿る。小さく引き締まった尻を両手で割り開いて、蕾に柔らかくした舌を押し当てた。
「やあっ。そこ、舐めないで……ってば……ぁ」
相変わらず佐和は嫌がるが、以前と比べて諦めるのが早くなってきた。
広げた舌で熱し、尖らせた舌を差し込めば、佐和は甘い声を上げる。
蕾はなまめかしくうごめいて、俺の舌に吸い付いてきた。
「あんっ、すおう……そんなところ、舐めちゃダメ……ん……っ」
言葉だけの抵抗で、ローションを絡めた指を押し込めば、願いが叶ったような満足気なため息が洩れる。
解けた蕾はたやすく俺の指を飲み込み、俺は早速内壁を探って、見つけた膨らみを指の腹で撫でる。
「ああっ、そこ……っ」
そっと押すだけで、佐和は短く声を上げ、たやすく吐精した。
度重なる絶頂に佐和の身体は熟れきった果実のようにぐずぐずになっている。
「来て、すおう」
入場チケットのようにコンドームを渡されて、俺は佐和の胎内へ侵入した。
熱くとろけた肉襞に包まれて、我慢できず根元まで押し込んだ。
片手で佐和の腰を抱え、反対の手で佐和の肩を掴んで、打ち込む衝動から佐和が逃げないように封じて、確実に穿つ。
「あっ、あっ、すおう……すおう」
先端が佐和の内壁に突き当たるたびに、俺の腰は甘く痺れる。佐和も尻を突き出してねだってくるから、最奥を突かれるのは気持ちがいいのだろう。
鏡に映る重なる身体を見て、さらに肌がぶつかる音と感触にも興奮し、甘い声とともにうごめく内壁に擦り付けて快感を味わう。
このままでは、佐和より先に達してしまいそうだ。
こんな気持ちのいい場所から離れるのはつらいが、息を吐いてゆっくり引き抜いた。
「あんっ、やだ。すおう、いなくならないで!」
自分の熱を冷ましつつ、佐和を焦らして、先端だけを抜き差しする。
「はあんっ、奥っ、奥も! 奥にも来て、すおうっ」
枕に爪を立て、きつく目を閉じて尻を振っていたが、鏡越しに目が合った。
「すおうの、いじわる」
唇を尖らせ、目元を赤く染めたまま睨まれたって、怖いどころか煽られるだけだ。
俺は佐和の身体を引き起こし、鏡に向かわせたまま、俺の腰の上に座らせた。さらに佐和の左右の膝を俺の膝に掛けさせて、強制的に開かせる。
「やっ! 恥ずかしいっ」
後孔に俺を含みながら、鏡に向かって大きく開脚させられて、佐和は鏡から顔を背けた。
「見て、佐和。つながっているところが見える」
てらてらと光る肉棒が、佐和の蕾の襞を伸ばしきって侵入し、含みきれない根元が血管を浮き立たせて見え隠れしている。
「ん……っ」
佐和は鏡を見たが、すぐに顔をそらしてしまった。目の前の耳が真っ赤になっていたから、俺は満足する。
両手で佐和の乳首をつまんで捏ねつつ、規則正しいリズムで佐和の内壁を突き上げた。
「あっ、ああん。んっ、う……んっ、すおうっ」
「気持ちいい?」
「ん、きもちい……っ。イッちゃう」
「どうぞ。俺、もう少しかかるけど」
佐和が特に弱い乳首の下側を指先でくすぐり、跳ね回る佐和の腰に合わせて丁寧に突き上げたら、佐和は全身を硬直させ、天井を振り仰いで絶頂した。
天井に張り巡らされた鏡に、苦しみから赦されて恍惚とする佐和の顔が映っている。
俺はゆっくり仰向けに倒れ、自分の身体の上に佐和を仰向けに寝かせたまま、律動を再開した。
「俺もイキたい。わがままに動いてもいい?」
「ん。周防の気持ちいいようにして」
挿入を深めるために佐和の腰を掴んで押し下げ、佐和の気持ちがいいところと、自分の気持ちがいいところの接点を探りながら腰をくねらせた。
天井を見れば、佐和の全身が見え、少し頭を上げて壁の鏡を見れば、結合部が見える。
佐和のピンととがった乳首や、ふるふると揺れる性器を目でも手の感触でも楽しみながら、自分が遂げるために腰を降った。
「自分が一番好きなAVを観ながら、自分が一番好きなオナホでイクみたいな感覚。しかもリアリティがやばい」
佐和をオナホに例えるなんて失礼だと思いつつ、ほかに言葉が思い浮かばなくて正直に言ったら、佐和の手が俺の腰に回された。
「僕は周防の一番好きで気持ちいいものを、全部兼ね備えてるってことだね」
そう言って笑い、振り返って俺の耳たぶをするりと口に含んで舐めた。
「うっ、佐和。もっとしてください。舐めてくれ」
「ねぇ、周防。僕を使って、自分勝手に動いて。周防のひとりよがりなオナニーを見せてよ」
耳を舐めながら囁かれて、俺は佐和を抱えてめちゃくちゃに腰を振った。起き上がって鏡に佐和を押しつけて突き上げ、仰向けに寝かせて正上位で覆い被さり、自分が仰向けに寝て佐和に腰を跨がせて突き上げた。
「え、結局そうなの?」
佐和には笑われたし、俺も笑ってしまったけれど、最後はやっぱり対面座位がよくて、佐和と抱き合って深く結合し、つなぎ目を揺らした。
「愛してる、佐和」
「ん。僕も愛してるよ、周防」
胸にぴたりと触れる佐和の肌に安堵する。佐和は俺の首に腕を絡め、腰を跨ぎ、積極的につなぎ目を揺らしてくれた。くいくいと前後に動く腰つきを鏡で見る。
「えっろ」
「んっ。言わないで。周防だけの内緒にして」
甘えた声でたしなめられ、さらには唇で唇をふさがれた。舌を差し込むと絡めとられて、ひたひたと舐められ、ぎゅっと吸われてざらついた舌の表面を感じる。
キスは気持ちよかったが、佐和の腰で捏ねられるペニスから強い快感が上ってきて、俺は酸素を求めて口を離した。
「ああ、イキそうだ」
「来て、周防。僕の中で気持ちよくなって。僕もまたイキそう」
佐和と抱き合って腰を揺らし、一緒に高みを目指す。息を詰めて快感に集中し、苦しくなって喘いで、キスを交わして快感に耐えた。
熱球のような快感が下腹部に溜まり、こらえきれなくなって佐和にしがみつく。佐和も俺を抱いて、浅く短い呼吸を繰り返した。
「あっ、あああああっ」
「はあっ、佐和っ」
僅差で佐和が先に遂げ、ひくひくとけいれんする内壁に誘われて俺も放った。快感が巡るのと同時に全身が弛緩し、鏡にはだらしなく顎を下げ、勝手に収縮する腹筋に全身を震わせている俺の姿が見えた。
「情けない顔だな」
ベッドに倒れて苦笑したら、隣に寝そべった佐和が笑った。
「男が射精する瞬間って、一番情けない瞬間だよね。でも周防がイクときの顔って、僕は好き。抱き締めたくなるような愛おしさがこみ上げる」
鼻筋を人差し指の先でたどって、鼻の頭をちょんとつつき、佐和は俺の頭を抱いて髪にキスをしてくれた。
愛されてるなぁ、俺。
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