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【1】ファーストコール……②
救命救急センターの自動ドアを潜るとストレッチャーの上で呻き声を上げている大柄な男性が見えた。すでに救急部の初療を終え、Aラインの確保、輸液と輸血の処置が始まっている。
「高良先生!」
救急部の医師から声を掛けられる。
「交通事故?」
「はい、胸部と腹部の打撲、右脛骨と腓骨の開放骨折、一部挫滅状態です」
下着姿で横たわっている男の右脚は脛骨が露出し、周辺組織が酷く損傷している。大型トラックのタイヤにでも轢かれたのだろうか。血管はもちろん、神経や腱など主要な組織が挫滅しているのが一目で分かった。簡単に言うと右脚の膝から下がグチャグチャでぶらぶらだった。
「胸部と腹部はエコーでFAST終わってます。見た所、心嚢腔と胸腔、腹腔内に液体貯留がないので内臓の損傷は大丈夫だと思いますが、この後、胸部および腹部CTに回します。問題があれば呼吸器外科と消化器外科の先生に連絡を取る予定です」
「血液検査の結果は?」
内臓を損傷しているとトランスアミラーゼの値が上昇する。その結果を聞きたかった。
「それも大丈夫です。血ガスおよび状態はAラインから小まめに結果取ってます。特に変化はありません」
「そうか」
「やっぱりこれ、アンプタですかね?」
救急医が男の脚を眺めながら顔を顰めた。アンプタとは四肢の切断、切除を意味する言葉だ。
「CTと単純X線 の結果を見ないと分からないが、患者のことを考えるとなるべくアンプタは避けたい」
「そうですよね……」
惣太は患者に向かって声を掛けた。脚の骨折の場合、痛みと出血でショックを起こす者も多いが、命にかかわる痛みのため、その痛みを抑制する脳内物質が大量に分泌されてぼんやりしている患者もいる。男はその状態だった。
「大丈夫ですか? 聞こえますか? この後、検査してからオペ室に入りますよ」
「うっ……」
男が腕を上げた。肩の後ろに和彫りの刺青が見える。ゴリゴリのヤクザだと一瞬で分かったが、ひるまずに対応する。惣太が勤務しているのは大学病院だったが、新宿という場所柄、ヤクザの患者は多かった。
「これからレントゲンとCT画像を撮りますね。過去の手術で腹部や下肢に金属が入っていませんか? ピアスなどのアクセサリーがあれば外すので言って下さい」
患者が何かを伝えようとしている。
「先生……助けてくれ」
「大丈夫ですよ。命に別状はありません。脚も切断せずにきちんと治しますからね」
「天使の梯子……」
やはり、痛みとショックで正気を失っているらしい。救急部の技師にCT室へ運ぶように指示すると男が呻いた。
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