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【2】セカンドコール……④
「週に三回の外来診察と週に三度のオペ。もちろんこれ以外にもイレギュラーなオペが入る。外来とオペが重なっている日が週に一日。月に四回以上の当直。その待機。回診にコール対応、カンファレンスに勉強会、研修医の指導もある。大学病院だから当然、研究もある。臨床論文も書かないといけない。学会もある。これでは寝る暇もない……。ブラックすぎる勤務体系だ」
――くそが。
詳細にわたる情報を漏らしたのはうちの科の病棟看護師か。
若い看護師たちとお菓子片手に仲良く雑談している姿が脳裏に浮かんだ。
「外科の中でも特に整形外科はブラックのようだ」
日本で最もブラックな組織に属している男に、そんなことを言われる筋合いはない。
「これではいつか先生が倒れてしまう。俺はそれが心配でならない」
「心配にはおよびません。大学病院に勤務している外科医はどこも同じようなものです」
「そうだろうか」
伊武は難しい顔のまま、タブレットをこちらへ向けた。
「これを見てくれ。先生の勤務体制を入力してデータ化し、計算した結果、先生の平均睡眠時間は四・二時間と出た。これは食事や入浴などの時間を極限まで削り落とした上でのデータだ。それでも五時間もない。本当に酷い状態だ。その上、月に何度か当直明けで外来、オペをぶっ通しで続ける日がある。こんな状態で緊急の患者が入ったら先生の体は――」
夜の八時に事故でERに運ばれてきたのはどこのどいつだ。その口を縫合 してやろうか。
「あのですね」
「はい」
「患者さんは自身の治療と向き合い、その回復に努めるのが仕事です。そのために入院治療をしているんです。担当医の健康面を心配する必要は全くありません。どうしてそのようなことをするんですか?」
「先生に惚れたからだ」
そうですか、と言いそうになって慌てて言葉を呑みこむ。男は真面目な顔をしていた。
「この病棟の看護師から聞いた。俺の脚は本当だったら切断しなければならなかったと。先生は俺のために一生懸命この脚をくっつけてくれた。先生でなければ難しい手術だったと、そして先生の処置のおかげで義足にならずに済んだと聞いた。先生は骨接合の名手なんだってな。その上、先生は俺の体のことを考えてピアスをやめろと叱ってくれた。誰かからあんなふうに叱られたのは生まれて初めてだ。そこに深い愛情を感じた」
おいおい、勘違いするなよ。
あのピアスをもう一度、嵌め直すのが嫌だっただけだ。それに壊れたものを治すのは外科医としての信条でありポリシーだ。愛情とは全く関係がない。
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