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【2】セカンドコール……⑤
「あの日、先生と出会って何かが変わった。体中が雷に打たれたような気がしたんだ。凄い衝撃だった」
それは痛みだ、コラ。詳しく言うと骨折による侵害受容性疼痛だ、この野郎。
「あの処置室で先生だけが俺に優しく声を掛けてくれた。パンツも脱がしてくれてピアスも外してくれた。誰よりも優しく、親切で温かかった。これは多分、運命なんだ。トラックに轢かれたのも、この病院に運ばれたのも、全ては運命、神の采配だ。先生と俺は人生を共にする運命の下にいる」
熱い視線に見つめられる。
伊武の目は潤んでいた。
「先生を愛している」
あれー、オピオイドの投薬量、間違ったかなー。あはは。
現在は大掛かりな手術の後、硬膜外鎮痛法 と呼ばれる方法で術後の痛みを管理することが多い。そうすることで無用な痛みを取り除き、患者の早期回復に努めているのだ。
麻薬性鎮痛薬の持続投与のせいで軽くラリってるのかもしれない。
惣太は冷静を貫いた。
「術後のストレスと様々な要因が重なって精神的な疲れが出ているのかもしれませんね。大丈夫ですよ。心配はいりません。心療内科の外来の予約、入れておきましょうね」
「先生、誤魔化さないでくれ。俺は本気なんだ」
がしっと凄い勢いで腕をつかまれる。そのまま力強く抱き締められた。
「わあっ!」
「先生に一目惚れした。頼む。俺の嫁になってくれ」
「はあ?」
「先生が姐さんになってくれたら組の皆も喜ぶと思う。これほど心強いパートナーはいない」
「パ、パートナーって!」
「先生、俺と結婚してくれ。そして、誠心会を纏める姐さんとして、いずれは伊武組の組長の妻として、俺と共に人生を歩んでほしいんだ。先生が姐さんになってくれたらうちの組も安泰だ。伊武組と縄張 りを巡って抗争を繰り返している東翔会の奴らも、簡単に手出しはできなくなるだろう。必ず幸せにする。だから、俺と一緒になってくれ」
逞しい体と男の汗の匂いに頭がくらくらする。誰か助けてくれ。
「伊武さん、落ち着いて下さい。手を離して――」
「……ああ、先生は可愛いな。体のサイズも、肌の感触も、俺の好みにぴったりだ。髪は栗色でサラサラで、肌なんか抜けるように白い。鼻と口は小さくて、つぶらな瞳が天使のようだ。その純潔な姿に白衣がよく似合う」
――離せ、この変態ヤクザめ!
男の胸を押し返すように抵抗したが、びくともしなかった。闘牛のように厳つい体だ。
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