何時間そうしていたのだろう。 　なにも出るものがなくなっても射精しつづけて、声が枯れても主人を請い続けて、俺はいつしか気を失っていたらしい。 　チャプチャプと水音がして、俺は目を覚ました。 　気づくと俺は、大きな木桶の中にいた。 　顔立ちの整った、俺と同じくらいの年の少年がうつろな眼差しで俺の身体を洗っている。それでも、俺はしばらくなにもする気が起きなくて、彼のするままにさせていた。 　悔しかった。自分がどんなふうになって、自分の主人にねだっていたか。仕事で主人を満足させる演技ならまだよかった。でも、初めての性行為で心の底からあの男に犯されたいと願ってしまったことが俺の自尊心を傷つけた。俺の言葉はなにひとつ演技ではなかった。たとえ、薬を飲まされていたにしても。 　隣にこの少年がいなければ、俺は泣いていたかもしれない。そんな姿は恥ずかしくてとてもそばに誰かいる状態で見せられるものではなかったから、俺はかろうじて我慢した。 　泣かないように気を逸らそうとして、黙々と俺を洗う少年をぼんやり眺めていたらだんだん彼に興味が湧いてきた。俺の尻の中を洗っていた少年だった。俺も今ならその意味がわかる。少年の眼差しは相変わらず虚ろだ。あることに気がついて、俺は彼に近づいて手を振ろうとした。 「痛っ……」 　立ち上がろうとしたところで、身体の痛みがぶり返した。そいつが俺に声をかけきた。 「ああ、あとで薬を塗るから……。今は力を入れないで……大丈夫、慣れるから……」 「目が見えないの？」 　俺の腕を流しながら、彼はまったく誰もいない方向を向いていた。さっきからいちいち、こいつと視線が合わないのだ。俺が気になっていることはそれだった。 「うん。ここに来てから見えなくなった……でも他のひとより耳はいいんだ」 　彼はやわらかく微笑んだ。俺は改めて彼を見直した。 「君も、俺みたいな仕事をしているの？」 　彼は明後日の方向を向いたままうなずいた。 「玉髄様は、怒らせなければ優しいから大丈夫……だけど、怒らせたら痛い思いもする……」 「痛い思いって、あのひと殴ったりするの？」 　彼はまたうなずく。 「どういうときに？」 　彼は小首を傾げる。 「あの方が怒ったとき……」 「そうじゃなくて。怒る理由があるだろ？」 「理由？」 　彼はまた首を傾げた。 　どういうことだろう。こいつがあまり考えていないのか、あいつが気分屋なのか。 　不意に彼の手が伸ばされて、俺の唇の端に彼の唇が触れた。 「なに？」 　俺は思わず体を離して聞いた。急に動いて体が痛む。 「知らないの……？　元気になって欲しい人にこうするんだよ」 「なんだそれ……」 　彼は楽しそうに笑って、「君は僕の、友達だから」と呟いた。 　俺たちはいつ友達になったのか。そう聞きたかったが、ここでこいつはあまり年頃の近い友達と呼べる人間に出会ったことがなかったのかもしれなかった。 　そういえば俺は彼の名前も知らなかった。 「君の名前は？」 「楔(クサビ)……」 　こうして楔と俺は友達になった。