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第7話

 俺は、玉髄を殺して屋敷の外に出ることを考え始めた。やるなら夜がいい。誰にも見られずに屋敷から逃れやすい。  どうやったら、人間はこの小さなナイフで死ぬのだろう。<王国>でもよくひとが死んだが、大抵は殴り合いの喧嘩だ。死体にナイフが刺さっていたのを見たことはない。  俺よりは体格のいい玉髄に、どうやったらナイフを取り上げられないで致命傷まで持っていけるだろうか。  何度部屋の中で練習してみただろう。一度庭が見たいと玉髄にねだって、部屋の外にも出してもらった。緑の屋根の小屋は警備員室なのか、入ってきた門の近くに見えた。それから、時々俺の面倒を見に来る楔に、屋敷の様子もできるだけ聞き出した。目の見えないあいつの情報は、俺の知りたいこととはなかなか合わなかったけれど、満月と新月の夜は教会の行事だかで、屋敷の中にあまり人がいないのだということを聞き出した。  やるのなら、新月の夜だ。逃げる姿も見つかりにくい。俺は、玉髄が俺を訪ねる、新月の夜を待った。  そうして何度か新月を通り越して、ついに決行の夜が来た。 「玉髄様、こちらにいらして……」  俺は、背中を玉髄に見せながら、少し肩から服を落としてやつを誘った。前を見せたら、このなんにも隠すことのできない衣装で、手にナイフを握っているのを見られてしまう。 「ああ、黒曜。おまえの髪は本当に素晴らしい黒曜だね」  玉髄は長くなってきた俺の髪を撫でてきた。その喉元をめがけて、俺はナイフを突き立てる。  玉髄は暴れて手を動かし、やつが手にした寝台の脇の燭台が俺の顔にぶつかった。左頬に鋭い痛みが走る。一方で表現しようがない悲鳴が玉髄から漏れていて、こいつは死んでいくんだと俺にはわかった。これが人間を殺すときの音なのだ。  大きな声を上げられて、人が寄ってきてはことだ。俺は必死になって自分自身が返り血で血だらけになるのも省みず何度もナイフを突き刺した。抜けなくなって、自分の顔にぶつかってきた燭台も奪って、何度も殴りつけた。  やがて玉髄が動かなくなり、静けさが戻ってきた。 「あ、逃げなきゃ……」  向かいの、緑の屋根の家。  あいつはそう言っていた。こんなところでぐずぐずしている場合ではない。  俺は慌てて、玉髄がいつも鍵をしまう腰のポケットから部屋の鍵を取り出して部屋の鍵を外したが、手が震えて思ったより時間がかかった。  逃げなくてはいけない。  誰にも見られないように……。  あいつの声を思い出して、俺はそっとドアの外を伺った。さっきまでだいぶ騒いでいたように思うが、周囲には誰もいなかった。いつも玉髄とやっているときもだいぶうるさいから、いつものことだと思っているのかもしれない。  俺は、必死で庭に出たときのことを思い出した。途中に渡り廊下があって、そこから庭に出られる。そんなに遠くなかったはずだ。 「……黒曜?」  しばらく行ったところで声をかけられた。

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