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第2話
イラスは微笑んでそれを琥珀に渡した後、俺に回してくれた。
「ありがとう」
俺は周りを見る。食べ物を渡されたのは俺たちだけだ。客だからか。
独り占めしないよう、俺は串からひとつだけ取るとイラスに返した。それから、琥珀にマントを渡す。
「ありがとな」
琥珀は微笑んで俺の頭を撫でた。
イラスは火に加わってきたジャイマに俺が返した串刺しを渡しているところだった。気づくと、火の周りに全員が集まっていた。
年長者から順番に、食べ物が回っていく。パン以外にも干した果物や何かの実が回された。
「棗椰子の実だよ。ほら、あの木」
俺が手にしたものをぼんやり眺めていると、イラスが近くに生えている木を指し示して教えてくれる。
全員の手元に食べ物が回ると、ジャイマが何か、ひとことふたこと、低い声で歌うようにささやいた。
全員が手を止めて、それを聞いている。食事に対する感謝か、そんなところか。
周囲の人々が食べ始めたのを見て、俺も合わせて食べ始めた。
やがて、人々の食事が落ち着いたころ。ひとりの男性が立ち上がって、何かを詠じ始める。
イラスが俺と琥珀の間に入って、その意味を教えてくれる。
「<創世記>だよ」
昔々、この世界にまだ神がいたころ。
<楽園>にいた神は炎から<火の一族>を、大地から<石の一族>を、海から<水の一族>を、空から<光の一族>を作った。
神は<火の一族>の長老にこう告げられた。
「この火を絶やしてはいけない。決して絶やさぬよう、この火の一部をおまえたちの内部にしまおう」
そうして神が火の長老の左胸に手をかざすと、火の一部はそのひとの中に入り、残りは地上に住む人々の元に散っていった。
次に神は<石の一族>の長老に告げられた。
「この石を奪われてはならない。決して奪われぬよう、この石の一部をおまえたちの内部にしまおう」
そうして神が石の長老の頭に手をかざすと、石は粉々に砕け散り、石の一部はそのひとの中に入り、残りは地中の奥深くに散っていった。
次に神は<水の一族>の長老に告げられた。
「この水を枯らしてはならない。決して枯らさぬよう、この水の一部をおまえたちの内部にしまおう」
そうして神が水の長老の腹部に手をかざすと、水の一部はそのひとの中に入り、残りは海となった。
最後に、神は<光の一族>の長老に向かって言った。
「おまえたちには何もない。おまえたちは、<奪う者>である」
光の長老は若く血気さかんで短気だったので、神に怒って殴りかかった。
「どうしてあなたは我々には何も与えないのですか」
神は殴られたまま微笑んだ。
「何かを持っていればそれは奪われる。奪う者も奪われる者も、すべては等しいからである」
神が言うことが理解できなかった光の長老は、そのまま神を殺してしまった。火の長老は、慌てて光の長老を止めようとしたが、彼もまた殺されてしまった。火の長老が死ぬと、彼の持っていた炎が黒煙となってその場に残ったが、光の長老はそれを飲み込んで、神から与えられていた火を自らの中に取り込んだ。
彼はそのまま<楽園>を支配し、自分たち以外の一族をそこから追放した。
<火の一族>は、暮らしにくい砂漠に追いやられた。<光の一族>は<火の一族>を襲い、神から与えられた火を集めにやってきた。そうして、彼らは<奪う者>と呼ばれるようになった。
残りのふたつの一族は、初めは抵抗していたが、暮らしにくい地域の生活に耐えかねて、<石の一族>と<水の一族>は<奪う者>の味方をするようになった。つまり、<火の一族>を狩り、彼らを<奪う者>に捧げる代わりに、生活を保証してもらうようになったのだ。
多くの<火の一族>は囚われ、<赤き海の大陸>にの外れの半島にある<居留地>に追いやられ、百年以上が経った。また<火の一族>であることを捨て、他の一族と交わり、定住し、<灰>となる者も現れた。
<奪う者>たちに逆らって生きているのは、今こうやって大地をさすらって生活している我々だけなのだ。
我々は一族の誇りを捨てず、最後まで我々として生活する。
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