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第3話

 最後のところに来ると、大人も子供も、その場にいた全員がその言葉を繰り返した。 「『我々は一族の誇りを捨てず、最後まで我々として生活する』」  みんなが声を合わせて、言葉がわからない俺は小さくなって様子を見ていた。 「エトナさま、<革命>はいつになるんですか? 俺はもう耐えられない」  さっきイラスと抱き合っていた若者が、琥珀に鋭い視線を投げかけて、大陸共通語で尋ねた。改めて見ると、どこかイラスと顔立ちが似ている。彼の兄か、親戚だろうか。  琥珀が立ち上がって答える。 「きみたちに、長く忍耐の時期を味わわせていてすまない。<大学>や<居留地>には組織もあるし、<灰>たちの中にも、他の一族のふりをして、政府の中枢にもぐりこんでいる仲間もいる。しかし、まだまだ味方が足りないんだ。わかるだろう、遊牧を旨とする我が一族は、この世界にバラバラで暮らしているし、賛同するひとばかりではない。俺たちにはまだ味方を探す時間が必要なんだ。それが、今回俺が君たちを訪ねた理由だよ」 「わかっています。ぜひ、決起の際には俺にも連絡をお願いします。どこにいても駆けつけますから」  琥珀は微笑んだ。 「ありがとう。えっと」 「ベルデです」  問いかけるような琥珀に、彼は名前を答えたようだ。 「ベルデ。きみたちのようなひとの力が、<革命>には本当に必要なんだ。わかるだろう、俺たちは一族のすべてを持っているわけではない。本来なら言葉もきちんとしゃべれない俺が、きみたちを束ねるなんて本当におかしな話だ」  それを聞いて、俺はふと気づいた。琥珀は簡単な言葉ならこのひとたちと同じ言葉で話していると思っていたが、確かに長い話のときには共通語になっていた。 「エトナさま! それでも、我々を率いることができるのは、世界を知るあなただけです」  若者が琥珀にすがりついて、思い余ったように訴えている。  俺は人々に囲まれ始めた琥珀のそばに居づらく、少し火から離れたところに移動して、そこにイラスがいることに気がついた。俺に気づいて、イラスが小さく微笑む。  俺はその隣に座り込んだ。 「ねえ、イラス。どうして琥珀……エトナは共通語で話しているの?」  俺が聞くと、イラスは少し悲しそうな表情で俺を見た。 「エトナさまは<居留地>のご出身だから」  俺は首をかしげた。<居留地>は火の一族が住んでいるところではないのだろうか? 「<居留地>では僕らの言葉は禁止されて長いし、隠されて使われてきた言葉も、だいぶ変わってしまった。エトナさまはお勉強もされていて、ある程度おわかりになっているみたいだけど、特にお話しされるのは難しい」 「そうなんだ」  俺はやっと納得がいく。琥珀がすべてを持っているわけではないと言ったこと。  琥珀はずっと誰かと話していて、手持ち無沙汰な俺は、イラスに聞いた。 「俺にも、きみたちの言葉を教えて」  たいした理由があったわけじゃない。でもさっき、イラスが石の大陸の言葉を使ってくれたから、ちょっと聞いてみたいと思っただけだった。 「何が知りたい?」  イラスが尋ねる。 「なんだろう? なんでもいいよ」  俺は戯れに言ってみた。特に何も考えず。 「そうだ。きみに、呪いの言葉を教えてあげようか」  イラスが何か思いついたように言った。 「何? 呪いの言葉?」  俺はどきりとした。ずっと昔、そんな言葉を大人からかけられた記憶があったから。  イラスはうなずく。 「『私はあなたを愛しています』」
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