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第4話
俺は苦笑した。そんな言葉、いつ使うんだか。
恋とか愛とか、<王国>で話している子供もいたけれど、どれも遠い世界のできごとだった。それでもせっかく提案してくれたことだったから、俺は質問する。
「なんていうの?」
彼はいたずらっぽく俺に微笑んだ。
「『私の炎を、あなたのために消したい』」
俺は彼の顔を見た。
「消したいって、……死にたいってこと?」
いやだ。
その気持ちが俺の胸に飛来する。
俺は生きたい。誰かのために死ぬなんて、そんなことはいやだ。
「そう。炎は僕たちにとって一番大切なもの。それを消してまで大切にしたいっていうことだよ」
琥珀だって、その胸に炎をかたどった入れ墨を入れている。大切なものを捨てて、自分の命を捨てて、それが愛しているということ?
俺にはよくわからない。
「なんだか、すごいね」
「そう。僕たち<火の一族>の気性は炎と同じで荒い。燃やし尽くすまで愛して、自分自身まで燃やしてしまう。だから、僕らにとって恋は避けるべき呪い」
俺は曖昧にうなずく。
「恋は、そのひとが自分のためのひとでないとわかっているのに、独占してしまいたくなる呪い。たくさんのうちのひとりでは許せなくなる。みんなの幸福よりも、自分の幸福よりも、ただひとりの幸福を望んでしまう呪い。本当に、よくない呪いだよ」
夢見るようにイラスが言って、俺はどきりとした。
独占したくなる呪い。
さっきイラスが琥珀といたときに、俺が感じた変な気持ちにそれは似ていた。
俺は不安になって、イラスの顔を見た。
「ねえ、そんな気持ちになってしまったら、どうしたらいいのかな?」
イラスは困った顔をした。
「うん、本当に。どうしたらいいんだろう。あのひとは、それから僕も、みんなのものなのに」
そうだ。琥珀はこの場にいるひと全員の期待を背負っている。俺が彼を独占するなんて、そんなこと、あるわけがないのに。
イラスはため息とともにつぶやいた。
「きっと、我慢するしかないんだよ」
そう言うイラスの顔は炎を反射して、どこか怖い感じがした。
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