23 / 51

第4話

 俺は苦笑した。そんな言葉、いつ使うんだか。  恋とか愛とか、<王国>で話している子供もいたけれど、どれも遠い世界のできごとだった。それでもせっかく提案してくれたことだったから、俺は質問する。 「なんていうの?」  彼はいたずらっぽく俺に微笑んだ。 「『私の炎を、あなたのために消したい』」  俺は彼の顔を見た。 「消したいって、……死にたいってこと?」  いやだ。  その気持ちが俺の胸に飛来する。  俺は生きたい。誰かのために死ぬなんて、そんなことはいやだ。 「そう。炎は僕たちにとって一番大切なもの。それを消してまで大切にしたいっていうことだよ」  琥珀だって、その胸に炎をかたどった入れ墨を入れている。大切なものを捨てて、自分の命を捨てて、それが愛しているということ?  俺にはよくわからない。 「なんだか、すごいね」 「そう。僕たち<火の一族>の気性は炎と同じで荒い。燃やし尽くすまで愛して、自分自身まで燃やしてしまう。だから、僕らにとって恋は避けるべき呪い」  俺は曖昧にうなずく。 「恋は、そのひとが自分のためのひとでないとわかっているのに、独占してしまいたくなる呪い。たくさんのうちのひとりでは許せなくなる。みんなの幸福よりも、自分の幸福よりも、ただひとりの幸福を望んでしまう呪い。本当に、よくない呪いだよ」  夢見るようにイラスが言って、俺はどきりとした。  独占したくなる呪い。  さっきイラスが琥珀といたときに、俺が感じた変な気持ちにそれは似ていた。  俺は不安になって、イラスの顔を見た。 「ねえ、そんな気持ちになってしまったら、どうしたらいいのかな?」  イラスは困った顔をした。 「うん、本当に。どうしたらいいんだろう。あのひとは、それから僕も、みんなのものなのに」  そうだ。琥珀はこの場にいるひと全員の期待を背負っている。俺が彼を独占するなんて、そんなこと、あるわけがないのに。  イラスはため息とともにつぶやいた。 「きっと、我慢するしかないんだよ」  そう言うイラスの顔は炎を反射して、どこか怖い感じがした。
ロード中
ロード中

ともだちにシェアしよう!