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3章 第1話
それから、月が姿を消して、また新しく生まれるころまで、俺と琥珀は彼らとらくだの食べ物を探して、砂漠を行ったり来たりした。琥珀はいつもみんなに人気だったし、俺はそれを見るたびになんだかいやな気持ちになったけれど、それでもだいぶこの生活に慣れてきた。
そんなある夜のことだった。
「起きろ、灰簾!」
隣に眠っていたはずの琥珀に体を揺さぶられて、俺は目を覚ました。
天空の高いところに三日月が見え、俺は目をこすった。眠い。まだ深夜だろう。
「逃げるんだ、襲われてる!」
意識がはっきりしてくるとともに、周囲が騒然としていることに気づいた。無理やり連れてこられたらくだも叫んでいるし、周りのひとも慌てて荷物をらくだに積んだり、らくだに乗ろうとしていた。そして、そのひとたちを襲っている、体格のいい見知らぬ男たち。
「灰簾!」
後ろからイラスの声がして、俺は振り返った。後ろにらくだに乗っているイラスがいた。
「イラス、灰簾を頼む!」
琥珀がそう言うとともに、俺を抱き上げ、らくだの上のイラスに押しつける。
「琥珀、あなたはっ」
イラスがその場を離れようとしているのに気づいて、俺は慌てて琥珀を見る。彼は剣を抜いていて、その上衣は血に汚れていた。返り血だろうか。
「大丈夫、すぐ追いつく」
「琥珀、俺も戦えます! 仲間はおいていけません!」
俺は楔をおいてきたことを思い出して、今度は誰もおいていきたくないと思った。しかも琥珀は、俺の仲間なのに。
俺がそこから飛び降りようとするのを押し戻して、琥珀は微笑んだ。どうしてそんな顔をするんだろう、こんなときなのに。
「灰簾。これは、おまえには関係ないことなんだ。イラス、頼む」
イラスがさっと手綱を引いて、らくだを動かした。琥珀はその隙に走り出していってしまう。
「イラス、俺を戻して!」
俺がイラスに訴えると、彼は言った。
「大丈夫。エトナさまが負けるわけがない」
「だけど、ひとりでは限界があるよ!」
「灰簾、きみのような子供がいても、足手まといだよ。蠍のことを忘れたの?」
そのイラスの言葉に、俺は蠍に噛まれたときのことを思い出した。彼がくれた薬のせいか、もう全然調子は悪くないけれど、たしかに彼の言うように、それ以外でも俺はこの砂漠について詳しくないから、足手まといになるようなことをまたしてしまうかもしれない。
そう思うと悔しくて、ちょっと目がしばしばした。いや、砂漠の砂が目に入り込んできたせいがほとんどだけど。
黙ってしまうのは子供っぽくて嫌だったけれど、何を言っていいのかわからなくて、俺は黙って何度か自分の目をこすった。
俺たちの周りには、ジャイマのほか、子供たちややや高齢のひとを中心として、四匹ほどのらくだが一緒に歩いている。
しばらく行って、らくだがゆっくりとしたペースになった。イラスは何度か後ろを振り返って、ほっとしたように息をつく。彼の雰囲気が少しやわらいでいた。追っ手がいないことを確認できたのかもしれない。
「ねえ、灰簾」
イラスのやさしい声がした。無視するのも子供っぽい気がして、俺は答える。
「何?」
俺の背中に、らくだの手綱を握るイラスの体温があって、俺は彼に後ろに抱きかかえられているような状態になっていた。
「さっき、エトナさまがおっしゃっていたことは本当なんだよ」
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