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第13話
俺とイラスと琥珀が乗って、らくだは今までになく不満げな声を上げた。それはそうだろう。三人分だ。
らくだをなだめながら、俺たちは、今日の朝まで寝ていた岩陰に戻った。
「灰簾、ここで待てるか? 俺は、街で薪をたくさん手に入れてこなきゃいけないんだ。イラスを<楽園>に還すには」
そう聞かれて、俺は不安になった。今まで、ずっと誰かと一緒にこの砂漠にいた。琥珀と離れていたときでも、イラスと一緒に。
今も、イラスは一緒だけど、でも。
俺はさっき来た道のことを考えた。太陽がまだ高いから、たいした時間ではなかったはずだ。でも砂漠だし、何かあったらもう誰にも見つけてもらえないかもしれない。そう思うと怖かった。でも、ひとりで何往復もしないといけない琥珀の方がもっと大変だ。
俺と琥珀が一緒にらくだに乗ってしまったら、薪はたくさん運べないだろう。
「大丈夫です。俺は、ひとりで待てます」
琥珀はほっとした表情をして微笑んだ。やっぱり、こう言って正解だった。
何もできない俺とイラスを抱えて、不機嫌ならくだを操りながらここまで来るのも、琥珀はすごく大変だったに違いない。
俺はやっぱり足手まといで、だからせめて、留守番くらいはひとりでできないと。
「すぐ戻ってくるから」
琥珀はそう言って、俺の前髪をかきあげると小さく唇を額に落とした。
「な?」
俺は、そんな顔を見せられるとつい気が緩んで泣きそうだったから、慌てて笑顔を作る。
「大丈夫です。それより、気をつけてくださいね」
琥珀は砂漠でひとりだし、街で怪我をしたりつかまったりしたら、それも心配だ。
「ありがとな」
街に向かっていく琥珀を見送って、俺は目の前で横たわっているイラスを見た。
だけど、俺は彼を見たくなかった。彼が、冷たい塊になって、今までみたいに俺に微笑んでくれないこと。その服が血に染まって、彼が大きな怪我をしていたのがわかること。血のにおいもした。
俺は、自分の膝を抱えて、イラスから離れたところに座った。
目を閉じる。いやだ。見たくない。
俺は、イラスが琥珀から離れてほしいと思ってた。でも、こんな形じゃない。
(ごめん、イラス──)
ひとを殺した俺が言えることじゃない。きっと琥珀が殺した、あいつの親もきっとこんな気持ちになっていたんだ。でも。
(イラス、帰ってきて)
涙が止まらなかった。
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