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第14話

 いつのまにか、俺は眠っていたのだろうか。  俺はまた、夢を見ていた。  まだ少年めいた外見のイラスとベルデが、並んで火山を眺めている。ふたりは肩を寄せ合っていた。 「ベルデ、ジャイマの次の長老にはきみがなるんだね」  ふたりが話しているのは、俺の知らないはずの言葉。それがわかるのは、これがイラスの夢だからだろうか?  俺はさっき、ベルデのところで黒い煙が俺の中に入ってきたのを思い出した。それは、その記憶じゃないのか?  なんでそんなふうに思ったのかはわからない。でも俺には、これが彼の記憶だと確信があった。  長い眠りについた彼の、最後の記憶の夢。 「父さんが死んだから、俺しかいないって。みんなが」  答えるベルデは、少し不安げだ。 「よかった」 「どうして」 「だって、きみがみんなを導くなら、きちんとやってくれるもの」  ベルデは少し照れたような表情になる。 「そんな、自信ない」 「大丈夫」  イラスは迷いなく、ベルデを見た。  イラスと指先が触れ合っていたベルデの手が少し迷って、それからイラスの手をとった。 「あの、な。イラス」 「うん?」 「俺と、練習しないか?」  持ち上げられたイラスの指先に、ベルデが小さく唇を触れさせた。 「あ、ああ……そっか、練習。長老になるんだもんね。レーニアと結婚するんだから、練習、練習がいるよね」  とたんに、イラスが慌てた様子が感じられた。ベルデが上目遣いで見上げてくる。 「そう、いや?」 「いやじゃ、ないけど」 「けど?」 「緊張、する」  ふっと、ベルデが笑った。 「俺も、するよ」  ベルデの唇が、イラスの唇に触れる。そっと離れて、彼はイラスにささやいた。 「大丈夫、一緒だったら怖くないから」 「うん……」  俺の心臓が早くなる。ああ、これはイラスの心臓だ。心臓がどうにかなって、まるで燃え尽きてしまう直前のような。 (ベルデ。僕は、自分の炎を、きみのために消したい──)  私の炎を、あなたのために消したい。  イラスが俺に教えてくれたんだ。  『私はあなたを愛しています』。  激しい気持ちが俺の中にあふれて、俺は思わず泣きそうな自分に気がついた。 (なんだこれ)  イラスの声で俺の中が満たされる。私はあなたを愛しています……。 『それは、俺でなくてもよかったのかもしれない。でも、誰かがその役割をやる必要がある』  風が強い。馴染んだ琥珀の声。  俺はその声を聞くと、ほっとしてもう泣くのが我慢できなくなった。自分がイラスなのかそこにいる誰か違う人間なのかもよくわからなかったけど、俺の涙は止まらなかった。 『それが正しくなかったら、俺はなぜ今も生きているんだろう?』  俺は今度は自分の心の中に、強い気持ちが生まれるのがわかる。  これは、昨日琥珀と話していた、イラスの決意だ。  僕が、その役割を──。
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