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第15話

 目が覚めた。  俺はそれと同時に、肺がつかえる感じがして咳き込む。涙もこぼれた。  煙だ。  俺の目の前で、灰色の大きな煙が起きていた。俺はそれを吸い込んでいたのだ。 「大丈夫か?」  そっと、背中から抱き起こされ、その相手が琥珀だったことに気づく。よかった。無事、戻ってきたのか。 「琥珀? どうしたんですか……?」 「ああ、<楽園>に還す儀式だよ。俺たちの魂は黒煙となって出ていくけれど、肉体も炎によって消滅させる必要があるんだ」  その琥珀の説明に、俺は目の前の煙に目をやった。その煙の中で炎がゆらめき、その中心に薪に囲まれたイラスの姿が見えた。  イラスが失われてしまう。  そう思うと悲しくなって、俺は思わず琥珀にしがみついた。 「琥珀! イラスは、ねえ、戻ってこないの?」  咳き込みながらぼろぼろと涙を流す俺の背中を、琥珀が撫でてくれる。 「大丈夫。こうしたら、いつか俺たちが<楽園>に行ったときに会えるから」 「本当に?」 「うん、俺たちはそう信じているんだ。灰簾、少し離れよう。煙を吸い込むと咳が出る」  そう言って、琥珀は俺を抱きかかえたまま少しイラスの煙から離れたけれど、俺の涙は止まらなかった。 「大丈夫……」  やさしく、琥珀の手が何度も俺の背中を撫でる。 「灰簾、大丈夫だよ」  心細そうなその言葉を聞いて、俺はふと我に返った。大丈夫じゃないのは、琥珀だ。  琥珀は自分の一族が殺されるのが嫌いだ。特にそれが自分より若い少年の場合は。  俺はさっきの夢を思い出した。イラスが琥珀の話を聞いて、生贄になろうと決意したこと。  琥珀もそうさせたのは自分だと言っていた。彼もそのことがわかっている。でも、俺はその話は絶対にしないようにしようと思った。  昨日見た。琥珀は戦うと強いけれど、結構心は弱いんだ。俺が守ってあげないといけない。  俺は手を回して、琥珀を抱きしめた。  その日、イラスが完全に灰になって<楽園>に還るまで、俺たちはそうして、抱き合ってじっとしていた。
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