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幕間・大学にて 3

 ニオスをスニル先生に預ける。彼はこれから表向きは新入生としてここで過ごして、空いた時間は革命に必要な訓練を受けるのだ。 「エトナ、少しいいか」  先生とは、学生のころに<組織>に誘われて以来だから、もう十年近い付き合いだ。  先生が俺だけに何かを言いたいのを感じ取って、俺はニオスと灰簾を先生の部屋から出した。 「ちょっと外で待っててもらえるか?」 「はい」  灰簾は生真面目な顔をして頷いた。また虫を追いかけるなと言おうかと思ったが、反省しているようなのでやめておく。  俺が戻ってくると、スニル先生は物憂げな表情で机の前に座っていた。 「お待たせしました」 「エトナ」  先生に呼ばれて、俺は机の近くに寄った。 「そろそろ、きみに組織のリーダーを任せたいんだけどね」  言われて俺は先生の顔を見る。そんなこともあるかと思っていたが。 「どうやら私には革命の先の人生はないようだ」  先生は微笑んでそう言った。 「どういうことですか?」  尋ねながら、俺はなんとなく彼の言いたいことがわかるような気がしていた。  去年会ったときより、彼はずいぶん小さくなった。痩せているのだ。 「うん、もうあまり体がよくないらしい」 「ご病気ですか?」  先生は頷いた。 「もともとあまり体は強い方じゃないんだ。最近、ちょっとしたことでもずいぶん寝込むようになった。なかなか血も止まりづらくてね」 「じゃあ、俺はこれからここに?」  そのつもりで来たわけではなかったが、その必要があればそうしなくてはならない。  特に、ほかに優先することがあるわけではないし。  かつての師は首を振る。 「ここにはマデラスがいるからな。当座は彼に訓練を任せよう。きみは、まだ、北方に行っていないだろう?」 「そうですね」 「北方の勧誘を終えたら、<居留地>の仲間を連れて、ここに戻ってきなさい。その時にきみに私の炎をあげよう」 「わかりました」  先生は少し震えている手で、左胸に手をあてた。  たぶん本当に、そんなに長くないのだろう。初めて会ったときはずいぶん、若々しい印象があったのだが。  その姿を長く見ているのもつらい気がする。 「お大事にしてください。もう失礼してもよろしいですか?」  俺は思ったよりも動揺している自分を見せないように、先生に尋ねた。 「ああ、これだけだ。細かい話はマデラスと相談するように。<居留地>に行ったらメルーとも」 「はい」  返事をして踵を返す。 「きみは迷わなかったな」  去り際に、そんな言葉を投げられた。 「迷ったら、違う選択肢があったんですか?」  振り返って俺は先生に尋ねる。マデラスは喧嘩っ早いからリーダーという感じじゃないし、メルーは戦力がなさすぎる。もともと、後方支援要員だろう。  先生は肩をすくめた。 「そうだったら、きみにこんな話はしていないな」
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