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第4話
せっかく琥珀が誘ってくれたけど、あまり食事のとれない砂漠に比べても、<居留地>の食事はあまり美味しくなかった。痛んでいるものが多いのだ。いいものは、他の一族のひとたちに、最初にとられてしまうようだった。
それでも、俺はたくさん食べた。いつだって、万全な状態でいなければいけないから。
食事を終えて俺たちは、メルーの店に戻った。メルーは宿屋もやっているらしく、二階にはいくつか部屋が並んでいて、俺たちはそのうちの一部屋を貸してもらった。俺たち以外に泊まるひとはいないようで、物音は聞こえてこない。
今日は疲れているだろうから、のんびりしろよ。
メルーはそんなことを言って、俺たちをおいていった。
部屋に荷物をおいて、俺は不思議に思ったことを言った。
「ねえ、琥珀。琥珀には、家族はいないんですか? 言いたくなければいいんですが」
琥珀は元々<居留地>に住んでいたのだったら、弟はいなくても、親や親戚がいるのではないかと思ったけれど、そういった感じのひとたちには会わなかった。もう生きていないのか、会いたくないのか。
琥珀はちらりと俺を見る。フードを被っていない髪が太陽に照らされて、その間から透明な翠の瞳が見えた。
「会いにいこうか」
「俺も、いいんですか?」
「かまわない。家族が何か言うことはないからな」
そういうわけで、俺は彼に連れられてまた外に出た。
琥珀は途中で何か、箱のようなものを買った。俺は黙ってついていく。
どのくらい歩いただろうか。街の、発展しているところからはずいぶん離れたところまで、俺たちは歩いた。
周囲には家は何もない。砂? 細かい粒が、風に吹かれているひらけたところに出た。
砂漠に似ていたけれど、砂漠ともちょっと違った。そこは平坦で、何もない広い場所だった。
一部だけ、紐が張られ周囲と区別されている。
琥珀はポケットから紙とマッチ箱を取り出すと、紙に火をつけてその紐の内側に投げ込んだ。さっき買ったものだろう。
「ここは……なんですか?」
なんとなく、さみしい感じがして、俺は尋ねた。何もないからか。
「墓地」
琥珀は言った。それで、俺は似たような風景を見たことがあったのを思い出した。
──イラス。
イラスを<楽園>に還したとき、そのときに見た光景に似ている。
風に吹かれているのは、砂ではない。灰だ。
そうだ、ここは死んだひとを<楽園>に還す、儀式をする場所なのだ……。
それに気づいて、俺は琥珀を見る。なんの感情も見えない。彼は、淡々としていた。
ここに来るということは、彼の家族はもう生きていないのか。
その理由も知りたかったけれど、それは彼を苦しめるような気がした。まあいい。きっと、いつか夢に見るだろうから。
俺はそっと彼に近づいて、彼の手を握った。彼の手は冷たい。まるで死んだひとの手みたいに。
「琥珀、俺が来てよかったんですか」
そっと、俺の手が握り返されるのを感じる。
「うん。ひとりでは来たくない」
よかった。俺がそばにいる意味があって。俺はそう思った。
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