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第7話

「昔の話でもいやです。あなたに、俺以外の人間が触れてほしくない」 「無理なことを言うな」 「ねえ琥珀。お願いです」 「灰簾。俺はおまえをずっと弟だと思ってきたし、子供だと思ってきたよ。おまえを傷つけたくない」  彼は俺をなだめるように、俺の髪をやさしく撫でた。 「だけど俺は成人したし、あなたの弟じゃない。あなたの一番でないこともかまわない。それでもあなたが俺から奪えないなら、俺があなたを奪います。それならいいでしょう?」 「灰簾、そういうことじゃないだろ」 「あなたは俺を、今でも傷つけられた何もかも奪われた子供だと思ってる。俺はもう、自分の力でほしいものを手に入れられるのに」  困った表情の琥珀の顔を見て、俺は堪えきれない欲望に襲われる。  そんなに、俺のことを大切にしないでほしい。あなたの弟じゃないんだから。 「灰簾……っ」  俺は手をするりと琥珀の服の中にすべらせて、へその下でとめた。指先で孤を描いて、琥珀の悦びを引きだそうとする。彼は苦しそうな声の混じったため息をついた。彼の頬が上気していく。 「琥珀。俺にあなたを奪わせて?」  俺は重ねてささやいた。 「あー……もう、」  彼は天を仰ぐとため息をつく。 「……仕方ないな。おいで、灰簾」  いいんだ。  さっと俺の心に興奮が広がる。  あきらめて微笑んだ琥珀の顔は美しくて、それにいつものようにやさしくて。  このひとを手に入れたい。今すぐ。  俺の腕の中でぐちゃぐちゃに泣かせて、彼を苦しめる現実のことなどすべて俺が奪ってしまいたい。  何もかも忘れて、俺のことだけ考えてほしい。  俺は勢い余って、彼を床の上に押し倒す。すぐそばに、寝台があるのに。 「琥珀、愛しています。『俺の炎を、あなたのために消したい』」  彼の言葉で俺はそうささやくと、強引にその下半身を露わにして、俺はそこに口づけた。 「……灰簾……っ」  大丈夫。俺は初めてじゃない。あいつもいいって言ってたし、俺は下手じゃないはずだ。  そのときだった。 『かわいいね。本当におまえは、淫乱になるように生まれてきたみたいだ』 『おまえたちはそういう生き物だから』  ずっと忘れていた、あの男の声。それがついさっき言われたみたいに、耳元によみがえる。胸がひやりとした。 「灰簾、大丈夫か?」  心配そうな琥珀の声がした。 「だっ、だいじょうぶ、です」  気づかれないようにしようと思ったのに、声が震えた。大丈夫なのに! 琥珀に触りたいって、さっきまであんなに思っていたはずなのに。 「大丈夫じゃないだろ。頭上げろ」  琥珀の手がいつものようにやさしく、俺の頭を撫でて、いつものように俺は抱き上げられていた。  寝台の上で琥珀の膝の上に乗って、俺の方が視線が上になる。もう俺の方が大きいのに。……怖いだなんて。 「大丈夫、大丈夫です! お願いです、本当にあなたとしたいんです、やめさせないで!」

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