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第8話
やさしく、子供を見るような彼の眼差しに、俺はひどく不安になった。まだ子供だろって、そうして彼はまた俺から離れていってしまう。
子供だと思われたくない。そう思うのに、焦れば焦るほど、ろくな言葉が出てこなくて、涙が出てきた。いやだ。本当にもう、子供じゃないのに!
「灰簾」
なだめるような、穏やかな声。いつも、そんなふうに呼ばれるのが大好きだったのに。
「いやです、琥珀……」
琥珀は微笑んで、俺を抱きしめてきた。温かい。いつも安心していた、琥珀の腕の中。
「おまえはいつも、大丈夫って言うからなあ。大丈夫だよ、灰簾。大丈夫じゃなくても」
「……っ…」
大丈夫じゃなくても大丈夫。
そんなことを言われたのは初めてだった。俺はいつでも大丈夫じゃないといけなかった。俺は子供で、琥珀に迷惑をかけちゃいけない。
だけど、琥珀はいつも俺が迷惑をかけてもいやな顔はしなかった。熱が出た俺にもつきあって一緒に寝てくれて。いつも、俺に微笑んでくれて。
今みたいに。
「おまえの気持ちはわかったから。大丈夫、おまえが怖くない方法を一緒に探してやるから」
「……?」
俺は琥珀の言うことがわからなかった。一緒に探す?
「灰簾、これは大丈夫だな?」
琥珀は俺をぎゅっと抱きしめながら、耳元でささやいた。もちろんだ。いつもそうやって一緒に寝ている。
「はい。安心します」
琥珀が小さく笑う声。
「よかった」
耳元に彼の息が触れて、俺は動悸がしてきた。大丈夫だけど、落ち着かない。
「触るのは、大丈夫か?」
琥珀の指が俺の背中を滑って、胸元に回ってきた。触られたところが熱い。
「熱いです、けど、怖くないです」
「じゃあ、直接は?」
そっと彼の指が下りてきて、上衣の裾の中から直接肌に触れてきた。触れられたへそのあたりがくすぐったくて、なんだかぞわぞわする。
「大丈夫です」
「じゃあしばらくこうしていようか」
琥珀はそんなことを言って、俺の腹や胸を撫で始めた。
「あ……」
何度も触れられるのに耐えられなくなって、俺は思わずため息をついてしまう。
「いやじゃないか?」
いやではなかった。いやというか、直接誰かの熱を感じられるのは気持ちがよかった。ただくすぐったくて、変な感じがして、俺は身をよじる。
「あ、ああ……、んっ、だっ、大丈夫ですっ」
琥珀は微笑んだ。苦しい。ドキドキする。
「服が邪魔だな。俺も脱ぐから、おまえも脱げるか?」
服だったら、子供のころは俺に何も言わずに勝手に脱がせていたじゃないか。俺はうなずいた。
俺が腕を袖から抜くと、琥珀が俺の上衣を引っぱった。彼は手早く自分の上衣も脱ぎ落とす。
炎、だ。
俺は久しぶりに間近で見る彼の胸元の入れ墨を見た。彼の、大切なもの。
俺は思わず手を伸ばしてそれに触れた。今朝夢に見たし、現実でも着替えるときなんかにちらりと見ることはあったけど、こんなに正面から見ることはなかった。
思わず触ってから、触っていいのか不安に思って彼を窺ったけれど、彼は俺に微笑んだままだった。
「あなたの、大切な炎ですね」
俺はそうしたくなって、彼の炎に唇を触れさせた。一度触れると、我慢できなくなって、俺はまたもう一度、そしてもう一度、何度もそれに繰り返し口づけた。
「……ん…っ……」
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