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3章 第1話

 祭りが近づいて、家々の前にランタンがおかれるようになった。  どこかで見たことのある景色だと思う。たぶん、いつかの夢だろう。  俺の胸にも、小さな炎が入った。琥珀とは違う、本当に小さな紋様だけれど。  <火の一族>でも、偉くならないと琥珀みたいな柄にはならないようだった。  まだ痛むけれど、その痛みは本当に俺の心臓が燃えているような気がして、俺は本当に嬉しかった。  琥珀とはそのあとも時々<練習>をして、彼は俺の胸の入れ墨を見ると、つらそうな顔をして、俺に聞いた。 「痛いだろ」  俺は首を振る。 「琥珀、いやでしたか?」  琥珀は最初の<練習>のあとは試練に参加することを反対はしなかったけど、つらそうな顔をさせるのも本意ではなくて、もうどうしようもないのだけれど、俺は聞いた。 「それを見て嬉しくなる自分が、いやになるだけだ」  彼は俺の髪に顔を埋めながら、そう言った。  俺は最初のころよりも<練習>に慣れた。それで、俺は気づいてしまった。  彼も俺と同じ、俺を支配して、ぐちゃぐちゃにして悦びを感じたいという欲望があること。彼は時々攻撃的な表情をして、そんな自分を隠すことができずにいた。でもそんな自分を、いやだと思っていること。彼は強い意思で、自分の欲望を隠していた。  俺は違うのだと何度言っても、彼は俺の兄のような気持ちが強いのだった。  きっともう少し、俺が大人になれば、彼もわかってくれるだろう。  琥珀とメルーは、日中は一緒に何か準備している。≪革命≫のための何かだろう。俺も、早くその中に入りたい。少しでも何か、琥珀の役に立てるように。  俺は、メルーに教えてもらった成人の試練について思いを巡らせた。  成人の試練をするのは今夜だ。  新しく入れ墨を入れられた少年たちは、真っ暗な中、ランタンひとつを持って、<居留地>のすぐ前にある<試練の島>にある火山に登る。他の少年たちと協力しないよう、皆ばらばらの時間に、ばらばらの舟で向かうのだ。  山自体はそれほど高いものではないので、火口にはほどなく到達する。そうして、その火口を一周しなくてはならない。  その火口では、様々な恐ろしいものを見るそうだ。  そのひとがもっとも恐れていること、恐ろしい未来など、火口で見る幻覚は見たくないものなのだとメルーは言った。それに動揺して、火口を踏み外したりすると死んでしまう。冷静に一周して、無事山から戻ってくることができれば、大人として認められるということだった。  そしてそこで見たものは、一生誰にも言わず、自分ひとりで抱えていかなくてはいけない。  ちゃんと一周した証に、胸の入れ墨は濃い色に染まるそうだ。 「帰ってこないひとはいるんですか?」  俺が聞くと、メルーは得意げに教えてくれた。 「そりゃいるさ。誰だって、大人になれるわけじゃない」  俺は、琥珀が何を見たのだろうと思う。そして、俺が何を見るのかを。 「坊や、不安か?」

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