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第2話

 <試練の島>で、幻覚を見た後。  俺は海中で気を失い、気づいたらここにいた。  俺は<赤き海の大陸>の、<灰>のところで見たような、大きな寝台の上で眠っていたようだった。  真上に見える天蓋を見つめながら、俺はぼんやりと琥珀のことを思い出す。昔は寝台の上で眠れなかった。彼がそばにいてくれて、俺はいつかこういう寝台が怖くなくなっていて──。  そのことを考えながらふと横を見ると、俺の隣に知らない人間が眠っていた。柔らかそうな、色素の薄い髪と肌。うっすらと、水色の瞳がひらく。 「きみは……?」 「おはよう。起きたね、王様。おれははやせ。きみの<妻>」  俺は寝台から飛びおりた彼女の、上半身に目をやった。  そう、それは彼女だった。何にも覆われていない、柔らかいふたつのふくらみを帯びたその上半身は、俺と同い年くらいの女の子だった。<火の一族>にはほとんど女の子がいないので、俺は女の子の裸を見たのは初めてだった。  俺が混乱したのは、それが男のような物言いだったからだ。  それでも、それはたしかに俺とは違う生き物だった。 「……?」  見たことのない女の子の体が不思議で、一瞬目を奪われてしまったが、少し落ち着くと、言われた言葉が引っかかった。  王様。俺の妻。  意味がわからない。  いや、違う。最近どこかで聞いた。  <試練の島>で見た幻覚が、一瞬脳裏に浮かぶ。 『王子をこちらに!』  その次の瞬間、俺の目前でその光景が再現された。記憶とか、そういうんじゃない。まさに目の前で、それを見ているみたいに。  幸せそうな若い男女の腕に抱きかかえられている赤ん坊が、兵士たちに奪われる。  兵士は俺の方に向かってきた。ぶつかると思って俺は一瞬体を硬くしたが、彼はするりと俺を通り抜けた。  もうひとりは、はやせに向かってきた。はやせは手を伸ばすと、ひょいと兵士が手にした赤ん坊を取り上げる。  兵士はどこにもいないのに、なぜか赤ん坊だけが、彼女の胸元に収まっている。 「なんだ、これ?」  びっくりした俺が慌てて隣にいた彼女を見ると、彼女はめんどうくさそうにためいきをついた。 「あー、きみは何も知らないんだっけ。<楽園>で、きみの夢は再現される。それを実体化できるのはおれだけだ。触ってみろ」  赤ん坊は顔を彼女の胸に向けている。彼女はそれを俺の方に差し出した。  赤ん坊は、俺の方を見上げようとした。俺は一瞬、めまいを覚える。名前。目の色。  思い出したくない。  目が合った。  赤みがかった、青い瞳。見覚えのある、灰簾石の色。 『ああ、どうか父さんたちを見逃しておくれ。灰簾、僕らの愛しい、光の子』  幻覚の中で聞いたやさしい声を思い出した瞬間、赤ん坊の小さな手が俺のてのひらに触れた。  次の瞬間、音を立てて赤ん坊が崩れ落ちた。 「?」  赤ん坊が煙のように消え、いくつもの緑色の石の欠片が床に転がった。まるで、赤ん坊が石に変化したかのように。 「玉随」  はせやは石を取り上げてささやく。その石の名前を聞いて、胸の奥がひやりとなった。 「きみはずいぶん、ろくでもない<夫>を持ったな。しかし前の王のように、再会することがないのはいい。きみがもう殺しているから」 「何、言って……」  彼女が口にする言葉の一致に、俺は緊張した。どうして俺があの男を殺したのだと、彼女が知っているのだろうか。 「<光の王>は<石の一族>の<夫>と、<水の一族>の<妻>、それから<火の一族>の<愛人>を持つ。きみはもう<夫>と<愛人>は持っていて、<愛人>から<火焔>を受けているから、夢を孕むことができた。それでおれと出会って、<夢の残骸>を夢から生み出すことができるようになったんだ。この石が、きみの夢の残骸」  彼女は当然のように俺に言った。 「わからない」

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