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第5話

「彼はおそらく、そのあたりで死んだのだろう。きみがすぐここに連れ戻されなかったところをみると、きみをスラムに隠しておいて、その後迎えにいくつもりだったのか。きっと、その途中で殺されたんだろう。そのあと、<王>は夢を孕むことができなくなり、<火の一族>と情を交わし、少しの<夢>が生まれても、ほとんど<夢の残骸>が生まれなくなってしまった。それで、多くの<火の一族>は殺されることになってしまった。彼らが死ぬときの夢は、<残骸>を生み出しやすいから。  そのあと、また新しい<夫>たちも迎えたようだが、<王>の孕む力は、どんどん弱くなった。そもそも、<光の一族>が長命だとは言っても、死なないわけではないのだ。ある日、俺は塔から呼び戻され、<大臣>たちからきみを探してくるように命じられた。<王>がもう、ほとんど夢を孕まなくなってしまったからだ。  俺は彼女の意思を尊重して、きみを連れ戻さない方がよかったのだろうか。それについて、俺は悩んだけれど、結局きみを戴冠させた。その一番の理由は、彼女をもう<王>から解放させてあげたかったからだ。これについては、きみに釈明はしない。灰簾、きみは俺の愛しい息子だが、俺にとっての一番は夕月で、きみはその次だ」  俺はそのとき、彼が俺に選択を任せていたことに気づいた。  あの、だって、どうしようもないですよね。  そう答えたのは俺で、彼はその俺の言葉に従ったのだ。 「あなたは俺に選ばせたんですか」  俺は尋ねた。そのときの俺は、もちろん自分の話をしているつもりはなかった。他人に対してそう考えていることは間違いないのだから、自分が二番目になったとしても、それは仕方ないのだけれど。 「どうかな。きみに聞いたけれど、聞かなくても俺の決断は同じだったかもしれない。きみは俺に怒っていいよ。俺を殺してもいい」  そう微笑んで呟きながら、彼は愛おしげに、俺に触った手で青い塊を撫でた。  このひとは、俺よりも、この石の中のひとを愛しているのだ。  そのことを俺は、怒るべきなのだろうか? 「彼女は今、<夢>を孕む必要がなくなり、俺の夢に囚われている」  優しげなその声を聞いて俺は理解する。 「この周りのものは、藍晶石ですか?」  母をとらえているものは、青い、父の瞳と同じ色の、藍晶石だった。 「そう。こういう<王>は過去にもいたようだ。きっとこのまま、寿命を終えるのだろう」  俺は、自分のことを考えた。俺も、誰かひとりに気持ちが囚われすぎたら、母のように、自分の形を変えてしまうのだろうか。俺は、琥珀の夢ばかりを見ないようにと繰り返しているはやせのことを思い出す。  琥珀。俺はいつか見た彼の身分証に描かれた石を思い出して、自分はその中に眠るのか考える。それとも、彼は本当は<火の一族>だから、俺は燃え尽きてしまうのだろうか。  どちらかといえば、そっちのほうがよかった。燃え尽きたら、イラスたちのいるところに行けるかもしれないし。 「灰簾、本当に、きみは俺を殺したらいいんだ。俺はきみを優先しなかった」  俺の、父であるらしいひとが言う。わからなくなって、散漫な考えを振り払うように俺は首を振る。わからない。  このひとを俺が殺して、それでどうなるというのだろう。すでに何もかも終わらせて、死体のようなひとなのに。

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