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第2話

「みんなが、消える?」  瞬間、琥珀ははっとした表情をする。  そうか、琥珀にも心当たりがあるのか。 「俺が<光の王>として、ここで生きていかないと、みんなが消えてしまうんです。琥珀、心当たりがあるんですね?」  琥珀は俺を見て、長いためいきをつく。 「……ある。おまえがいなくなったあたりから、町や村から、ひとがいなくなることが増えて」  そうだろう。俺があまり、協力的でないから。はやせが怒っていたのも、そのせいだ。 「俺がいなくなるまでは、俺の母親が<光の王>だったんです。でもあまり、役割を果たさなくなって、代わりに俺がここに連れてこられた。それでもみんなが消えるのは、俺が役割を果たさないから」 「役割?」 「<火の一族>を食らって、永遠に夢を見続けること」  琥珀の表情がこわばる。 「だから、俺はあなたと一緒に帰りたいけど、帰っちゃいけないんです。俺はここで、あなたの一族を犠牲にして、生きていかないと」 「灰簾……」  どんな顔をしたらいいのかわからない、そんな顔をした琥珀を見て、俺もためいきをついた。そっと彼の琥珀色の髪を撫でながら押しつけられた額を離して、彼にささやく。 「……琥珀。俺はわかったんです」 「何が?」 「あなたが俺に、殺されたがっていた理由が。あなたは俺とは違うと言うかもしれないけど。あなたはたくさんのひとの犠牲に生かされていましたね」  彼の弟や、イラスや、もっとたくさんの<火の一族>のみんなや。 「そうしてたくさんの死を背負って、あなたは<抵抗する者>として生きていた。それを無駄にしないためには、あなたは前に進まなくてはいけなかった。それでも自分がやっていることがもう正しいのかもわからないと言って、俺に殺されたいと望んでいましたね」  こんなことを、彼の前で言葉にするのは初めてだった。彼は小さく、子供みたいに頷く。 「俺もそうなんです。たくさんの、<火の一族>を犠牲にしながら、俺は生かされている。その犠牲を無駄にしないためには、俺は<光の王>としての勤めを果たさなければいけない。だけど、どうしてこんなにたくさんの犠牲を払わせながら、それでも俺は生きていかなくてはいけないのだろう。犠牲にならなかった誰かのために?  そんなことを考えていたら、俺も、誰かに殺されたいと思ったんです。自分から、放棄することができない。そうだとしたら、誰かに俺を役割から解放してほしい。だから、あなたにここに来てもらって、あなたに殺してほしいと思ったんです。しかも、<光の一族>は長生きなんです。他の一族のひとたちよりずっと。俺はまだまだ死なないんだ。だから、俺を少しでも憐れんでくれるなら、俺を殺してください」  殺されるために俺を拾ったのは、琥珀のはずだ。なのに、俺が彼に殺せと頼んでいる。  そのことが、なんだかおかしくて、俺は微笑んだ。  琥珀は俺を見て、それから俺の頬を撫でた。彼の手が俺の頭の後ろに回って、俺の頭を下へ向かせた。目を閉じた彼の額が、ふたたび俺の額に押し当てられる。  こんなふうに彼の側にいるのが、大好きだった。目を閉じたらあのころと、何も変わらないのに。俺はもう、彼を見下ろしてしまう。 「灰簾、俺はおまえがいつも生きたがっているのが好きだったよ」  琥珀はそっと呟いた。 「え?」 「俺は自分は死にたかったけど、いつも生きたがっているおまえが好きだった」  俺が、生きたがっていた? そうかもしれない。  自分が生きのびるために、あいつを殺して。友達も見捨てて。 「そう、ですね」 「だけどおまえは変わってしまったんだな」  そう、かもしれない。  好きだった。  そう過去形で言われて、彼はもう、俺のことを好きではないのだと思う。胸の痛みを感じたけれど、でもしかたがないことだった。  今の俺は、かつて自分が持っていると思っていたものを何ひとつ持っていない。 『きみが、この世界と関係ないこと、何者でもないことは、とても幸福なことなんだ』  そう言ったイラスの言葉を思い出す。だけど、俺もこの世界に関係があった。そのことで俺が今までのようにいられなくても、それもどうしようもないことで。  どうしてあのとき俺は無邪気に、自分は何者でもないと信じていたのだろうか。

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