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第4話

 窓から見える外は、どこまでも鈍色の空が広がっている。もうすぐ雨が降るのだろうか。そうだとしたら、鎧戸をおろしておくべきだったか。窓から雨が降り込むと、床が濡れてしまう。  でも、腕に抱えた琥珀の頭が上下するたびに、天気のことなどどうでもよくなっていく自分を感じる。  もしこれから豪雨になるとしても、もう止められないだろう。それなのに、俺はなんとか琥珀を静止しようとした。 「あ、あ……、琥珀、ねえ、やめ、やめてください…」 「嫌か?」  むき出しにされた俺の脚の間から整った顔を覗かせて、彼はたずねた。話すたびに性器の先端に彼の唇が触れて、俺は悲鳴を上げそうになる。昔、あの屋敷で仕事をしていたときにそんなことをしていたことはあったが、琥珀との<練習>で、こんなに丁寧にこんなことをしたりされたりということはなかった。時間がかかると俺が怖がるのを、彼は知っていたから。 「ッぁ、だって、それは別に、関係ないし……」  そうだ。俺が精を出しても、俺が彼の精を受けることにはならない。 「おまえが嫌だったらしないよ、灰簾」  顔をあげて、濡れた唇を軽く舌で舐めた彼は俺の方を見た。  それを見るだけで、ぞわぞわする。  いやじゃない、嫌ではないけど。 「怖いか?」  俺は首を振った。 「大丈夫、です」  琥珀は苦笑して首を振る。 「よくない質問だったな。大丈夫って言うのは、おまえじゃなくて、俺の方だった。大丈夫だよ、灰簾。おまえがいやなら、しない」  そうささやいた唇が、俺の耳もとに触れてくる。 「ん……ッ」  もう片方の彼の手は、さきほどまで彼の唇が触れていたところをもてあそんでいるままだ。  何かが首筋に這いあがってくるような感じがする。大きく体が波打った。 「あ、琥珀、怖、……!」  琥珀のてのひらを自分の精で汚したことに気がついて、俺は恥ずかしくなる。  彼は目の前で微笑むと、俺を汚れていない方の腕で抱きしめた。額に彼の唇が落とされる。  もう片方の手で琥珀が触れている、俺の腹あたりがドロドロだ。なんのためにこんなことをしているのか。別に、<火焔>を与えられているわけでもないのに。 「中まで触れても大丈夫か?」  俺の精をもてあそんでいた琥珀の指先が、それより下の方に触れてくる。彼の膝が俺の膝を割った。  俺だって、何が起きるのかは知っている。初めてじゃないし、俺が触れたときの琥珀の反応だって知ってるし。 「はい」  彼の手で俺の脚が、彼の両肩に導かれた。その中心に控えめに触れた彼の指が、体の中を探るように動く。  ぞわぞわする感じが下半身の方から湧きあがってくる。だいじょうぶ、と俺はもう一度心の中で唱えた。少し不快で、いやな感じがないわけではなかった。 「あ、ああ」  体がびくんと痙攣した。その場所に気づいたように、琥珀の指が動く。熱心に責められて、俺はそれから逃れようとする。 「だいじょうぶですからっ、もう」 「だって」 「いやなんです、早くしてください……、はやく」  それ以上、自分に起きることを待つのが怖かった。とにかく、あれを入れてしまえば終わりだ。始まれば終わりが来る。  あの場所で仕事をしていたときはそうだったし、それ以上のことはもういい。  俺は彼に触れてほしいと思っていたけれど、それは俺が<火焔>を得るための欲望だったにすぎない。この行為自体に意味なんてない。  俺の中に<火焔>が注ぎ込まれれば俺は命を得る。それだけだ。  それ以上のものを渡されるのは怖い。  まっすぐ前から思いつめたような彼の翠の瞳に見つめられて、心の中を見透かされているような気がした。気まずくて目をそらす。  「灰簾、──」

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