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第6話
──夢だ。
当然だ。俺が琥珀の、<火の一族>の精を受けたのだから、夢を孕んで当然だ。そう思う。
もうひとつの世界で、俺はひとりで歩いていた。
どこかわからないが、この少し肌寒い、天気の悪い草原は<楽園>だろう。
俺は自然に、歌を口ずさんでいた。あの歌。<試練の島>で繰り返された歌。
かわいいはみにくい、やさしいは残酷。
愛は憎しみ、楽園は地獄。
正しいは悪魔、自由は束縛、与えるひとは奪う。
(……お母さん)
何度も繰り返されていたその歌の声の主を思い出す。
そうだ。そこは<試練の島>で見た、俺の父と母がいたところだ。
でもそこには誰もいなかった。そこからしばらく行くと、石が崩れて地面に埋まっていた。
<城>の残骸だ、と俺にわかった。今俺が横たわっている、この城が崩れて大地に還ろうとしている。
もう誰もいないのだ。
その事実を俺は知っている。それでも俺は歩き続けていた。
(<居留地>……?)
気づくと、俺は古ぼけた誰もいない<居留地>を、ひとりで歩いていた。ああ、今は違う名前になったんだっけ。
あそこと<楽園>はだいぶ距離があるのではないかと思うけれど。
でも、<試練の島>で見た幻でも、俺は気がつくと居留地に着いていた。いつかまた、あの場所に行くことがあるのだろうか。
「あなたは……?」
目の前に、少年めいた表情の俺が、不思議そうに立っている。
火山が噴火した。空から石が降ってきた。俺は慌てて、少年を海に投げ込んだ。
周囲一面、黄金の光に包まれる。俺もそれに飲み込まれる。熱い。
どろりとした黄金。
琥珀色。
目が覚めた。びっしょりと汗をかいている。
窓の外からざあざあと大きな音がしている。雨が降っていた。その音で起きたのかもしれない。
腕の下に冷たい感触がして、俺はそれを見た。琥珀色のつややかな光。寝台に、大量に濡れたままの琥珀石が転がっていた。俺の夢から生まれた石か。
琥珀は<石の一族>じゃないのに、と思ったが、あいつの石を見なくていいことは幸いだった。
それらに囲まれるようにして、眠る琥珀がいた。穏やかな寝顔。下半身にだるさはあるが、その姿を見てほっとする。
俺は途中で気を失ったのかもしれない。琥珀が着せてくれたのか、俺の服は整えられていた。
俺はおびただしい数の石を寝台の隅に押しやると、琥珀の隣に体を寄せた。
はやせが俺の夢に入って、この<残骸>を回収したのだろうか。まあいい。
彼女も俺が、<火の一族>の<火焔>を受けることには反対しないだろう。
そもそも、彼女も大臣も、琥珀がここに滞在して、俺がこれらを生み出すことには賛成なのだ。賛成でないひとがいるとしたら、<火の一族>だけだ。
俺はベルデや、メルーや、ここにいる<火の一族>、ここにいない<火の一族>のことを考えた。
みんな、琥珀に怒るだろう。裏切られたと思うだろう。
誰かのために自分を犠牲にすること。自分のために誰かを犠牲にすること。正しいのは、どっちなのか。
さっき、琥珀だけが幸福でいればいいと、乱暴な想いを抱いたことを思い出した。眠る琥珀の頬を撫でる。
「ねえ、琥珀。俺も、すべてを捨ててもいいですか?」
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