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第二章 学園生活1

†  †  †  † 「誰かー、ここにあった俺の辞書知らない?」 「さっき中野さんが持ってったよ」 「マジか…、今から使おうと思ってたのに…」 あちらこちらで飛び交う声。ざわざわと活気のある雰囲気。 多数並んでいる机上はどれも、ファイルだのなんだのとたくさんの書類が積み重なり雑然としている。 どこの学校も、職員室の状況は変わらないらしい。 そして目の前には、キャスター付きの椅子に座っている茶髪スーツ姿のお兄さん。 週が明けた月曜日の朝。今日から登校するという事で、まずは職員室に顔を出した。 周りの空気に気圧されながらも色々な先生を眺めていると、机に向かって何かの書類に目を通していた目の前のお兄さんが、クルッと向きを変えてこっちを見上げてくる。 俺が入るクラスの担任だというこの人。柔らかな雰囲気の優しそうな人だ。 「天原深君、ね。僕はクラス担任の笹原(ささはら)です、宜しく」 そう言って笑う姿は、俺達とあまり変わらないように見える。 あとから聞いた話だと24歳らしい。 それよりも若く見えるけど、24歳で高校の担任を受け持つなんて出来る人なんだろうな…と思う。 「うちのクラスは比較的人見知りとか少ないと思うし、仲の良いクラスだから安心していいよ」 ニコニコと微笑みながら言う笹原先生の言葉に、ホッと肩の力が抜ける。 俺自身そんなに人見知りはないものの、馴染めなさそうだったらどうしよう…とか、やっぱり少しは不安になってしまう。 考えてもしょうがないんだけど、実は昨夜から結構緊張していた。 「深なら大丈夫だよ」なんて秋は軽く言ってたけど、こればかりは実際に顔を合わせてみないとどうにもならない。 でも、良い感じのクラスなら、あとは自分の頑張り次第ってわけだ。 緊張もあるけれど、それよりもだんだんとワクワクした気持ちが込み上げてきた。 手をグッと握りしめて気合いを入れていると、笹原先生が椅子から立ち上がる。 いよいよだ。 「さて、それじゃあ行こうか」 「はい」 『決戦』の2文字が頭に浮かぶ。 べつに戦いに赴くわけではないけれど、今の気分はまさにそんな感じ。 自分を奮い立たせながら、先を歩く笹原先生の後に着いて職員室を出た。 教室へ向かう廊下の途中、歩きながら色々な説明を受けた気がするけれど、実は全然頭に入っていなかったりする。 頷きながらも、耳に入る内容は右から左へ流れて行く状態だ。 そのかわり、リノリウムの廊下を歩く自分の足音がやけに大きく耳に届く。 そんな状態から我に返ったのは、「着いたよ」の一言が聞こえた時。 ハッと視線を上げると、そこは『2-3』と書かれたプレートの掛かっている教室の前だった。 意味もなく制服を整えたりしている自分が、なんだかおかしい。 「1人で廊下にいるのもイヤだよね?一緒に入ろうか」 笹原先生の提案に、一も二もなく頷いたのは言うまでもない。 扉を開けて室内に入っていくその後に続いて、期待感と緊張感を伴いながら足を踏み出した。 「おはよう!欠席者はいるかなー?」 ざわついている教室内。声を張り上げて出席確認をする担任の姿があるにも関わらず、生徒の大半はそんな声を聞いてもいなかった。 何故それがわかるのかと言うと、突き刺さる勢いで教室内の全ての視線がこっちを向いているからだ。 気持ちはわかる。俺だって見知らぬ人間が担任と一緒に入ってくればイヤでも注目してしまうだろう。 …けど…、いくらなんでも見過ぎ! 全身に穴が開きそうだ。この状態では顔を上げても目線のやり場に困る。どこを見ても誰かと目が合いそう。 教壇に上がらず扉の前で立ち尽くしているから余計に目立つのか? こんなことなら笹原先生の隣に行った方が良かったかもしれない…。 あまりの居心地の悪さにそんな事を考え始めた時、とうとう笹原先生が呆れたように笑い声をあげた。 「気持ちはわかるけど、もう少しくらい話をしてる俺の方を見る努力をしてほしいな」 クラス中の生徒がみんな俺の方を見ている事に気がついて、さすがに苦笑いを浮かべている。 そのままの流れで俺の方を向いた笹原先生は、片手を上げて手招きをしてきた。 とうとう自己紹介の時間がやってきたらしい。 呼ばれるままに教壇へ上がり、笹原先生の横に立つ。

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